アドバンスト成形性解析 : 従来の成形限界図による予測限界を超越し、高精度で合理的な成形性解析を実現

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 プレス成形の工程が、かつてないほど複雑化しています。美観や省スペースといった要件に対応するため、従来は不可能とされていたシャープ・エッジや急激な曲率変化を検討せざるを得ない状況になっています。また環境問題に対する意識の高まりから、超高強度鋼やアルミニウムなどの材料等級の採用も進んでいます。このようにプレス成形金型の設計や製造がより複雑になる一方、これまで以上に短納期化も求められています。成形性予測について述べると、成形限界図(FLD)を基軸とする従来の成形性解析では、この複雑化に、もはや対応することができません。本稿の前半では、従来の成形限界図と、その成形性予測の限界について説明します。後半では、AutoForm R10から実装されているアドバンスト成形性解析について説明します。この新たな手法では、従来の成形限界図の欠点が解消され、不具合予測が大幅に向上しました。図1に示したアドバンスト成形性とサーフェス・フェイラー、この2つの観点のビューとダイアグラムのみから、不具合をより正確に予測することが可能になりました。

図1: アドバンスト成形性解析(AFA)の概略

従来の成形限界図:期待される予測範囲(および注意点)
 従来の成形限界図による解析の限界を理解する上で、まずは成形限界曲線(FLC)をどのように算出するかご紹介します。図2が示しているのは、試験片に局部的なわれ(ネッキング)が生じる時点の最大主ひずみと最小主ひずみを特定した中島試験の結果です。

図2: 中島試験と従来の成形限界図

 これらのポイントを結ぶと、それが成形限界曲線となります。この手法による成形性の判断には以下の特性があり、限界が存在します。

  1. 中島試験は1回のストロークで行い、ネッキングが発生するまで連続的に材料を引き伸ばします。この状態は、主にプレス成形工程における最初のドロー・ステップに対応します。しかし注意点として、荷重条件が大きく変化する多段工程には適用できません。いわゆる非線形性を伴う変形や非比例荷重の条件下では、従来の成形限界図による予測能力は著しく低下するためです。
  2. 中島試験では、(曲げがない)純引き伸ばしを想定しています。実際の試験で使用したパンチの半径は50 mm程度ですが、ブランクの板厚は数ミリあります。したがって測定した成形性の限界は、部品が強く曲がる領域では一般論として控えめなものとなっています。実際には、ドロービードに沿った領域や、材料を比較的小さな半径で曲げるフランジ加工やヘミング加工などで、限界が生じます。
  3. 中島試験は、オープンな金型で実施しています。つまり材料は、板厚方向には荷重がかかりません。通常の深絞り加工では、この条件は現実的だと言えます。なぜなら、両面接触は通常ブランクホルダの下部でのみ生じますが、そこでは圧縮変形による不具合は予想されないからです。しかし工程にしごき加工または印圧加工が含まれる場合、従来の成形限界図では現実に則した限界を表すことができません。これは、スプリングバックを最小限に抑制するために半径を印圧加工(リストライク)するときや、フランジの高さを増すためにしごき加工するときなどに、よく生じる状態です。
  4. 中島試験では、局部的なネッキングによる不具合をとらえることを目的としています。金属材料は張力をかけて引き伸ばすと、突然破壊することはなく、まず局部的なネッキングと呼ばれる境界領域で強い板減が発生します。しかしプレス成形では、ネッキングが妨げられる状態があり、このような場合、実際の破壊限界まで材料を変形させることができます。局部的なネッキングが発生しないため、成形限界曲線は適切な限界とはなりません。よって、別の破壊曲線/モデルを定義する必要があります。幸いなことに、プレス成形の場合、この種の直接破壊は、以下のような明白な状況下のみで生じます。

    a. サーフェス・クラック:前述したように、曲げ加工は変形を安定させるの
    で、ネッキングが遅延または阻止される可能性があります。ただし、超高強度鋼およびアルミニウム材は、板厚方向では安定を保ちますが、材料表面で破壊限界に達する可能性があります。これによりサーフェス・クラックが生じますが、成形限界曲線では確実に予測することはできません。

     b.せん断クラック:材料が成形限界図の左斜め方向に変形すると、シート面には等しい量の引張と圧縮が発生します。そのため板厚は変化せず、ネッキングも発生しません。事実、この領域では成形限界曲線は定義されていません。しかし、大きく引き伸ばすと、材料はやがて破壊限界で破壊します。このようなせん断クラックは、キッチン・シンクや燃料タンクなど、絞りがとても深い形状のダイ半径で見られることがあります。

     c.エッジ・クラック:ブランクのエッジの応力状態は一軸であるため、引張りでは破壊前にネッキングが生じます。しかし、ブランクのエッジは通常せん断されるため、材料特性と表面状態が大きく変化します。特に繊細な材料では、実際に材料のネッキング限界に達する前に、微細な特徴(または不良)に応じて、エッジで異なる不具合が発生することがあります。

     d. 板厚内圧縮:しごき加工および印圧加工で発生する負の静水圧応力状態によって、ネッキングが阻止されるため、材料は実際の破壊限界まで変形します。

アドバンスト成形性解析
 AutoForm R10のアドバンスト成形性解析(AFA)では、従来の成形限界図を拡張して、上述すべての物理現象を考慮します。最新の科学文献から、これらの物理現象を捉えることができる手法やモデルを慎重に選択した上で、実装に至りました。本稿では、採用したモデルの詳細な説明は控えますが、ご興味があれば、AutoFormサービス・センターからAutoForm R10ホワイト・ペーパーをダウンロードし、該当章をご覧ください。

 ここでは、アドバンスト成形性解析が提供する高度な物理モデルの利点を、実例を挙げて説明します。

 2ヶ所に局部的なネッキングが発生しているフェンダ―を、図3に示します(画像提供: ボルボ・カーズ社マット・シグヴァント博士)。従来の成形限界図による解析ではこれらの箇所を特定できませんが、アドバンスト成形性解析はその箇所を正確に特定しています。このケースでは、成形性の予測を可能にした決定的な物理現象は、非線形変形です。ブランクは最初、パンチによって両平面方向に引き伸ばされますが、ホイールライン周辺に小さな半径が成形されると、すぐに材料は接線方向に固定され、さらに半径方向にのみ変形します。これにより、図3のアドバンスト成形限界図のプロットのとおり、典型的な非線形変形経路が生成されます。またアドバンスト成形限界図では、ポイント・マーカーの色が従来の成形限界図の領域境界に必ずしも沿っていないことに注意してください。成形限界曲線を大幅に下回っても、このポイントが重要となります。高度なアルゴリズムからマーカーの色が決まり、ポイントの重要性を正確に評価しているためです。一方、マーカーの位置は従来の成形限界図と同じであるため、この手法と直接比較できます。

図3:非線形変形におけるネッキングの予測
(画像提供: ボルボ・カーズ社マット・シグヴァント博士)

 図4は、従来の成形限界図が強い限界を示しているドロービード部です。ご存知のように、ビードの直後で不具合が発生することはほぼ皆無であるため、この臨界からも、ビードのような小さな半径部の曲げや再曲げが正しく考慮されていないことわかります。一方、アドバンスト成形性解析のビューは、現実に則した状態を示しています。

図4:改善されたドロービード直後の成形性予測

 図5は、円形フランジのしごき加工を示しています。このケースでも、従来の成形限界図では、この状況が限界だと評価されます。しかし実際には、板厚方向に強い圧縮応力がかかった状態で変形するため、アドバンスト成形性解析で正しく予測されたように、ネッキングは発生しません。

図5: 改善されたしごき加工フランジの成形性予測

 図6は、構造部品の一部分を示します。材料は板厚1.8 mmで、3.3 mmの半径で曲げられます。アドバンスト成形性解析では、ネッキングは発生しないと予測されました。なお、この場合、シートの中間レイヤーのひずみは非常に小さいため、板厚方向のネッキングは予測されないので、従来の成形限界図でも同じ予測結果が得られることに注意してください。それでも、比較的低い破壊曲線に反映されているように、このUHSS材料は直接破壊に対してかなり敏感です。その結果、サーフェス・フェイラーのビューは、材料のサーフェスにクラックが発生することを正しく予測しています。

図6: 厚いUHSSシートを小さな半径で曲げると、板厚方向でネッキングが
発生しなくてもサーフェス・クラックは発生します

結論
 ほぼ全てのプレス成形工程の設計において、成形性解析は欠かせないものであり、慎重に行う必要があります。そのため近年は、成形性予測の精度や信頼性を高めるための研究に大きな投資が行われています。本稿では、数値解析による成形性予測を大きく改善させる目的において、この検証結果を実業務へ転用および適用する方策についてご紹介しました。