バーチャル環境を活用した金型の検収: プレス金型のコストおよびリスクの軽減

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 2008年にミシガン大学交通研究所がOEMやTire1サプライヤのプレス金型製作部門を対象に実施した調査から、プレス金型のトライアウトに伴う再加工の回数について、次のような統計が発表されています。

 当時のプレス金型業界の関係者には、この結果は驚きに当たるものではなく、むしろ、サプライチェーン全体が抱える深刻な問題が数値化されたものだと受け止められました。

 この調査では、再加工が必要となる主な要因として、以下が挙げられました。

  • ドロー型の開発が「不十分」: 限界の安全性、パネルの伸び不足、など。
  • 製品設計の変更
  • 材料の複雑化
  • プレス部品の寸法規格と外観品質

 そして再加工を削減するために常識的に行われている取り組みの「全体像」について、以下を挙げています。

  • 再加工の必要性を削減 – トライアウトの初回パネル評価で、部品の品質目標をクリアできる金型を製造する
  • 不必要な再加工を削減 – アセンブリに大きく影響する部位のみを再加工する
  • 再加工の失敗を削減 – 金型見込み補正の設計目標と、その金型で生産した部品を検討し、再加工すべき箇所を的確に判断する
  • 想定しない結果の回避 – 部品の一部を再加工することが、他の部分に悪影響を及ぼすか(ある問題を解消することで、別の問題が誘発されるか)を確認する
  • 非効率的な再加工の削減 – 物理的な金型の再加工において、事前に指定された量の修正が行われるかどうかを見極める

 金型の再加工を削減するために「有効だと思われるツール」と、それに関連するコスト・品質・納期の優先順位について調べたところ、調査回答者から以下のような結果を得ました。

  • 金型プレス成形シミュレーション・ソフトウェアの進化(特に複雑な材料向け)
  • バーチャル・アセンブリ・ツール
  • 3D非接触測定技術の進歩
  • 製造評価プロセスの改善
  • サプライヤと顧客間のコミュニケーションと信頼関係の向上

 この調査が行われた当時から、バーチャル・エンジニアリングとシミュレーションの技術は大幅な進化を遂げ、自動車部品のプレス成形エンジニアリングに広く採用されるようになりました。しかし、今日のプレス金型業界では、コストと納期のリスク軽減の観点において、これらのツールが十分に活用されていないことが、事例として示されています。以下にクラスが異なるパネルのプレス金型について、標準的な再加工の工数を見積もりました。

  • 中型補強パネル – 4工程
    • 最低4回の再加工(通常は7回以上)、1回につき$25k(約¥368万)の再加工コスト
  • フード・インナー/アウター – 4工程
    • 最低4回の再加工、1回につき$ 50k(約¥740万)
  • ボディサイド・パネル – 5工程
    • 最低4回の再加工、1回につき$ 125k(約¥1,840万)

 そしてこれらのコストには、以下のような要因が絡んできます。

  • 軽量化と乗員安全の観点から材料等級が複雑化
    • アルミニウム 5xxx、 6xxx
    • AHSS / UHSS: DP、CP、TRIP、..
      • 薄型ゲージ
    • 寸法規格
    • 材料関連コスト
    • 従来からの旧慣習
      • シミュレーション技術への不信感
      • シミュレーション技術に対する理解不足
      • プロダクト/プロセス・エンジニアリングへの一線を越えたアプローチ

 このとおり、エンジニアリングとシミュレーションの技術的進歩だけでは、コスト・納期・品質の面で効果が上がらないことは明らかです。むしろ、エンジニアリングのプロセスを柔軟に適応させることで、技術者、設計者、金型製作者、トライアウト技術者といった作業担当者が進歩した技術を存分に活用することで、プレス金型にかかるコスト全体を削減できるようになります。

 オートフォーム社では、プレス成形のシミュレーション技術が確立した頃から20年以上にわたり、このプロセスの適応について取り組みを進めています。また今後の挑戦として、プレス成形エンジニアリングとトライアウトの両部門にこの取り組みを促進してゆきます。

 このような適応を具体的に進めるには、実用的な運用上のフレームワークを活用できますが、これはバート・カーレア博士が発表した正確度指標パレートの法則に関する6部構成の連載にて紹介されています。本稿では、プレス金型業界におけるコスト削減、品質向上、納期短縮を実現するための「戦略」として、このコンセプトの活用について検討します。

 まず2008年にミシガン大学で実施された「プレス成形シミュレーション・ソフトウェアの進歩」に関する調査結果から明らかになったプレス金型業界の最優先課題を検証しましょう。

 シミュレーション結果の精度に注目が集まっていますが、その一方、プレス成形システムと最終製品をシミュレーションで正確に再現できなければ、精度を高めることはできません。シミュレーションの精度を確実に担保できれば、バーチャル環境下で行うプレス部品のエンジニアリングや工程・金型の検証についても信頼性を高めることができ、さらにはバーチャルに検収まで行うことすら視野に入れることが可能になります。

図1: 正確度指標の指標となる入力パラメータ

 正確度指標とは、正確なシミュレーション結果を得るために不可欠な設定項目を指標化したものです。これらの項目をすべてシミュレーションで設定するには、まず膨大なデータを測定、特性評価、収集しなければなりません。しかしパレートの法則をロードマップとして活用すれば、各項目がシミュレーション結果に及ぼす影響度を鑑みて、各項目に優先順位をつけることができます。さらにデータを設定するタイミングも計ることで、シミュレーション結果の品質と精度から各項目の費用対効果を引き出すことが可能になります。このように、シミュレーションを究極的な正確度へ成熟させる過程において、何層ものアプローチを重ねることで、現実に則したプレス成形工程の検証を合理的に行うことができ、生産条件の再現性も担保することが可能になります。

 プレス成形担当エンジニアは、早期段階からバーチャル環境下で金型設計および工程計画に着手できるようになります。そしてプレス金型のコストや納期を左右する加工条件や材料を的確に判断しながら、目標とする品質指標に向けてプロセスの成熟を促進させてゆくことが可能になるのです。

 再加工の回数やコストの削減、納期短縮、品質向上を実現するために、製品、工程、金型のエンジニアリングに関するプロセスを適応させなければなりません。しかしこれは現状の運用基準を否定するものではなく、また、適切に適応できれば、プレス金型の製造、供給、運用のビジネスに大きな利便性をもたらす可能性を秘めています。

※参照為替レート:1ドル=147.2円(2022/11/7)