北米における自動車向け鋼材に関する最新情報

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2021年度GDISシンポジウム概略

 GDIS (Great Design in Steels)は、長年にわたりデトロイト地区の鉄鋼業界が毎年春に主催している1日間のシンポジウムです。このシンポジウムには多くの参加者が集まり、自動車業界における鋼材の新たな活用方法やトレンドについて情報交換が行われます。多くの産業フェアと同様に、2020年のGDISは開催が見送られましたが、2021年はバーチャル開催ながらも、多くの参加者が集い、盛況を博しました。

 本稿では、2021年5月19日に開催されたGDISについて、概略をご報告いたします。当然ながら、この概略報告はオートフォーム社の視点で捉えたものであり、また自動車用板金のエコシステムという特定分野に焦点を絞った主観的なものでありますこと、あらかじめご了承ください。

 オートフォーム社およびCleveland Cliffs社(旧A K Steel社)は、第3世代AHSS鋼板パネルのスプリングバックをどのように管理・緩和できるかを調査する自動車および鋼材業界の共同プロジェクトに参画し、一定の成果を収めました。このプロジェクトでは、パネルに流入ビード(flow bead)およびステイク・ビード(stake bead)を追加することで、プレス成形中に生じるスプリングバックを効果的に制御できる、という仮説をたてました。プロジェクトの前半では、流入ビード高とステイク・ビード高のマトリックス全体を網羅する多数のパネルを製作しました。次にこれらのパネルをスキャンしてパラメータを記録し、パネルのひずみをビード寸法の関数として、特性を算出しました。

図1:クリックして拡大表示

 この特性評価から、パネル形状の異なる要素のひずみを緩和する効果的な方法について、試験に適用したマトリックスの範疇における結論が導かれました。このプロジェクトの後半ではAutoForm-Sigmaを活用し、ビード寸法の範囲全体を網羅する包括的なシミュレーションを通じて調査を行いました。このバーチャルでの調査から明らかになった点として、シミュレーションの結果と実パネル分析結果の相関関係、パネルの面品質不良に対する流入ビードとステイク・ビードの影響、および明確に裏づけられたこれらの影響範囲などが挙げられます。ひいては、今後の金型・プロセス開発では、このバーチャルでの調査を先行実施することで、最も効果的なスプリングバック緩和方法を検証することが可能になります。

図2:クリックして拡大表示

 GDISでは多岐にわたる分野について、オートフォーム社のみならず多くの参加者による展示や発表がありました。

 特にOEMによる材料活用やエンジニアリング業務の進化に関する展示は必見の価値があります。バッテリー電気自動車(BEV)の台頭もあり、課題が山積している軽量化と安全性については、さまざまな方策が提示されていました。

図3:クリックして拡大表示

 シンポジウムで取り上げられたテーマについて、いくつかご紹介します。

  1. 高強度および高成形性を兼ね備えた第3世代AHSS鋼材が注目を集める中、PHS(プレス硬化鋼材)の活用も広がっています
  2. 主にPHSの中でもテーラー・ロールド・ブランクが採用される傾向にあります
  3. 第3世代に顕著な、たとえば、局部的な成形性(エッジおよびサーフェス・クラックの対応策)、溶接接合中に生じるLMEクラックの緩和といった問題の解決に取り組んでいます

 上記の詳細について、あるいはGDISで発表されたプレゼンテーションについてご興味のある方は、以下のページをご覧ください。

https://www.steel.org/steel-markets/automotive/gdis/2021-gdis-presentations/.

 最後に、シミュレーション結果の信頼性を高めるために不可欠な材料試験と特性評価について、ゼネラルモーターズ社グローバルR&D部門のトム・ストウトン氏による示唆に富んだ問いを紹介します。

図4:クリックして拡大表示

 このようにレトリックな質問に対する「答」は簡単に推測できるかと思われます。詳しくは、ストウトン氏のプレゼンテーションをご覧ください。