概要
産業界が競争力強化を図るには、製造工程や手順のコストや時間を削減することが効果的です。そのため多くの企業が従来とは異なる製造方法を模索しています。このような背景のもと、Tecumseh do Brasil社ではAutoForm社およびTechnNova社と共同で、密閉式コンプレッサのハウジングの製造に関してフィージビリティ検討を実施し、従来のプレス成形を代替する工程として対向液圧成形を用いることが可能であるかを調査しました。この調査は生産工程の効率化および競争力強化を目的とし、数値シミュレーションを活用して行われました。
調査手法
対向液圧成形シミュレーションの精度を確認する上で、まずはTecumseh社が密閉コンプレッサの製造に使用している従来のプレス成形工程について調査しました。
プレス成形工程のシミュレーション結果を実際の材料を用いた実験結果と比較することで、対向液圧成形の検証や実行可能性の比較を行うことが可能になります。シミュレーションではまず材料特性を評価し板減を検証しました。
この調査では以下の手法を用いました。
- 実験による検証
- 数値シミュレーションの活用
実験による検証
コンプレッサのハウジングはプレス成形段階のものを入手し、実験とシミュレーションを行いました。この段階ではハウジングの板厚を分析し、部位ごとの板減の割合を調査しました。
この解析は2段構成となっています。
- プレス成形工程の解析
- ハウジング周りの板減解析
2つのハウジングの試験片を切断し(図1)、11箇所で板厚を測定することで、問題の部位を特定できました(図2)。
図1: 板減解析用に切断した試験片
図2: 解析との比較部位(板減)
数値シミュレーションの活用
実験を行った後に、2つの工法を比較するために、以下に示す3つのシミュレーションを実施しました。
1.従来の工程シミュレーション: 現在の工法であるプレス成形工程をシミュレーションしました(図3参照)。
図3: ハウジングの中間成形段階におけるパンチ、ブランクホルダ、ダイの設定
2.従来の工程を代替する工程のシミュレーション:まず従来の工程と同じ材料とインポート形状でシミュレーションを行いました。ただしパンチおよびダイ上のハウジングカバーは半径を変更しています。これは、ダイの半径が大きすぎると、対向液圧成形の金型を閉じる最終段階でシーリングの問題が生じる可能性があるためです。
3.対向液圧成形のシミュレーション – 液圧式の深絞り工程: この対向液圧成形の数値モデルでは、ハウジング材料とそのインポート形状は前述の工程と同じままとしました。これは最終形状のキャリブレーションを行う前の準備段階の形状です。これにより従来の工程における製造段階を1つ削減できます。
図4: 液圧式の深絞り工程 [12]
調査結果
実験結果
コンプレッサのカバーから脚部までの領域では、シートの公称板減に対して最大40.79%の大幅な板減が確認されました。一方、コンプレッサの肩周辺では、最大でわずか25.73%の板減にとどまりました。
図5: 左) カバー-脚部の板減値。右) カバー-肩周辺の板減値
シミュレーション結果
FLC曲線と板減 – 従来の工程と代替工程
従来の深絞り工程シミュレーションでは複数の致命的な領域が確認されましたが、その大半がコンプレッサの脚部に集中していました。対照的に、代替工程では半径を小さくしたにもかかわらず、従来の工程よりも材料の成形性が向上し、半径領域に高い摩擦が生じていることも示唆されています。
致命的な領域では従来の工程の公称板厚の30%~40%の板減が確認されましたが、代替工程では板減は20%~30%となり、工程は改善されていることが実証されました。
図6: a) 従来の工程での板減、b) 代替工程での板減
FLC曲線と板減 – 対向液圧成形
対向液圧式の深絞り工程では、工程を通じて最高圧力を判断しなければなりません。最適な圧力を決定するため、10、20、30、40気圧でそれぞれシミュレーションを行うと、10気圧で最良の結果が得られました。10気圧では公称板厚に対して20%~25%の板減となり、従来の工程よりも改善が見られました。
図7: 圧力に応じて異なる板減値: a) 10気圧、b) 20気圧、c) 30気圧、d) 50気圧
結論
この事例から以下の結論を導くことができます。
- 対向液圧成形の板減値は低くなることが実証されました。材料の成形性が改善されるため、従来の深絞り工程を代替する手法として適切です。
- 対向液圧成形はプレス成形工程の製造工程を1つ削減できるため、製造時間およびコスト削減が見込まれます。
- 圧力が10気圧の場合に最適な結果を得られます。致命的な領域で確認された板減はわずか20%であり、製品の品質が向上することが確認されました。
- 解析ツールとしてAutoFormを使用することで、対向液圧成形案を詳細かつ包括的に解析することができました。長所および課題が明確になり、最適なパラメータを選択することができました。
参照:
White Paper: “HYDROFORMING PROCESS NUMERICAL MODEL APPLIED TO HERMETIC COMPRESSOR HOUSINGS.” By Erlifas Moreira Rocha, Universidade Federal do Rio Grande (FURG), Prof. EngD João Henrique Corrêa de Souza, Universidade Federal do Rio Grande (FURG).