「プレス成形技術によくある落とし穴」をビル・ピットマンが再考します

 世界的な自動車メーカーのプレス成形フィージビリティ担当マネージャーであるビル・ピットマンは、材料の無駄を最小限に抑え、最低限の金型数で高品質の部品を生産することを理念に掲げています。過去の寄稿記事では、プレス成形技術における よくある落とし穴トップ4 として、後期段階の設計変更、トライアウトでの度重なる調整、計画からの予期せぬ遅延を回避することの重要性について説いています。この落とし穴について、ビル・ピットマンが再び紹介します。

はじめに:
 私はクレイモデルのフィージビリティ検討から製品発売に至るまで、ホワイトボディ全体の製造可能性を担保する責任を担っています。これまでの経験から、プレス成形のフィージビリティ検討業務において、必ず避けるべき4つの失敗について紹介します。

1. シミュレーションで検証せずに方策を立てる

 プレス成形のフィージビリティ検討では、常にシミュレーションで事前検証を行うことが大切です。多くの場合、不具合対策の検討中にシミュレーションを活用することがありません。しかし検討した対策は効果的であるように見えても、予測値を下回ったり、上回ったりする可能性があります。事前にシミュレーションで検証を行わなければ、金型への適用後に不具合が検出されると万事が手遅れになり、開発計画や予算に大きな影響が及びます。

 シミュレーションの検証結果があれば、プレスの専門知識を有しないベンダーや設計部署、その他の関係者にも要点を的確に伝えることができます。また選択した工程に対する確証を得ることもできます。

2. 全体像を見失う

 ベンダーや設計担当者から設計変更の依頼を受けた場合、常に全体像を念頭に置いて判断することが重要です。また軽微な変更が予算や開発計画全体にどのような影響を与えるかも考慮すべきです。たとえば、ある部品を変更すると、それを取り付ける別の部品にも影響があるはずです。全体像を捉えることで、プレス成形に必要な視点が得られます。

3. トライアウトが設定条件を満たさない

 トライアウトの条件が不適切である場合がよくあります。たとえば、プレス金型の作成において、特に熱間プレス成形工程の場合、ダイスポッティングの作業に多大なコストや時間がかかります。金型工場によっては、トライアウトではこのダイスポッティングを簡略化し、適切な試験を行わずにパネルを作成する場合があります。

 シミュレーションにて設定した条件は、すべて実金型にて再現しなければなりません。境界条件、適切なストローク設定、面圧、ギャップ、バインダの閉動作が合致した適切なダイスポッティングが施されていることが必須です。適切なダイスポッティングがなければ、計画と同じ摩擦係数にはなりません。

4. シミュレーションのみでコンセプトや製造能力を証明する(相関性の確認)

 シミュレーションの設定条件を実際の製造現場で再現可能であるという点に確証を持つことが重要です。シミュレーションは有益なツールですが、材料モデル、摩擦、面圧設定などプレス成形の物理的条件を再現しなければ意味を成しません。シミュレーションの設定条件と物理的条件の相関性が確認できたら、それを「標準」として活用することで、バーチャルでのシミュレーション作業を効率的に行うことができるようになります。成功には信頼が不可欠です。

まとめ

 長年にわたり、私はあらゆる組織に多くの利益をもたらすロバストなエンジニアリングプロセスの手法を提唱してきました。シミュレーションを包括的に行うことで、後期段階の設計変更、金型の不具合、非効率な処理能力、部品の品質不良など、納期に影響を与えかねない問題が生じるリスクを最小限に抑えることができます。自動車の完全性を担保する上で、トライアウトの「一発合格」はとても重要です。また生産の立ち上げも円滑に進むため、リードタイムの短縮にもつながります。これは、担当者の豊富な経験、エンジニアリングツールの習熟、円滑なコミュニケーション、そして製品設計部署との早期からの連携などを強化することで実現できます。

 ビル・ピットマンの包括的なエンジニアリングシステムの詳細については、ピットマンによる寄稿記事をご覧ください。

ビル(ウィリアム)・ピットマン、活躍中!

ビル・ピットマンのきめ細やかなサポートは米国のみにとどまらず、同社がグローバル規模の成功を得る上で不可欠なものとなっています。このピットマンの手法は様々な業界で取り組みが進んでいるデジタル化のトレンドに応じています。