オランダで働くスペイン人エンジニア: 慣習の相違から得た学び

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オランダの文化的枠組みから捉えたエンジニアリング業務の考察

エルネスト・アロンソは、オートフォーム社へ入社してから8年が経ちますが、その6年間をオランダで過ごしました。アロンソは母国スペインとは大きく異なるオランダの慣習に時に戸惑いながらも、その文化的枠組みの相違から多くの学びを得ました。そこでオランダの異文化体験を鑑みたシミュレーション事情について、アロンソから話を伺いました。

「エンジニアリングの原則とシミュレーションは、普遍的に一定です。新たな手法が開発されると、その優れた知見は瞬く間に世界中に広がります。そして世界各国の部品製造や金型生産の分野では、シミュレーションが有効活用されてきました。しかし私が当社のエンジニアリング・ソフトウェアについてユーザーをサポートする際には、相手がスペイン人かオランダ人かによって、異なる対応をすべきであることに気付きました。特にユーザーから受ける要望や質問の多くに、文化的な影響を感じたのです。

例えば、安全な「グリーン」のシミュレーションを達成するためのサポートを行う場合、それぞれの国ごとに異なる常識や戦略、期待感によって、社会的に容認される範囲も異なることに注意しなければなりません。私はすでにスペインに帰国していますが、オランダで勤務した経験から生涯の財産となる大切な学びを得ることができました。両国は根本的に多くの歴史的背景を共有し、また価値観や生活様式も似通っています。しかし些細な部分では、両国の慣習は面白いほどに異なり、またそれが文化を豊かにしているのだということも確信しています。

私が感銘を受けたオランダの日常風景は、道路に面した家の大きな窓にカーテンが掛かっていないことです。多くの観光客が驚くこの慣習は、日光が貴重であることや、プライバシーをあまり必要としない国民性といった事情以上に深い理由があります。それは、仕事のみならず人生のあらゆる面において、透明性を重んじる気質に関係しています。オランダの同僚たちは、自身の業務やプロジェクトについて、または個人的なことでも、決して説明を控えたり隠したりすることはありません。ありのままの姿を見せ合い、お互いをよく知ることで、仕事仲間としての結束を強めているのです。

オランダの特徴的な風景として、誰もが思い浮かべるのが、自転車です。街中のいたるところに自転車が走っていて、「オランダを訪れた外国人が道路を渡ろうとすると、ほぼ間違いなく自転車にぶつかる」という大げさな笑い話もあるぐらいです。私は、走るとギシギシと軋むギアのない古い自転車を手に入れ、毎日の通勤では、自転車から公共交通機関の水上バスを乗り継ぐ大冒険を楽しんでいました。

図1: ロッテルダム水上バスには、エラスムス橋の桟橋で乗船し、
上流の目的地に到着するまで、デッキに自転車を駐輪します。

オランダの文化に慣れるまで、様々な戸惑いを経験しましたが、特に「オランダ人の率直さ」については、私にとっては語り草となるほどに貴重な学びでした。オランダに長期滞在した経験のある方ならば、この率直さに対する驚きは、避けては通れぬものです。

オランダ人の同僚や隣人が「で、オランダは気に入った?」と尋ねてきたとしましょう。オランダを訪問する際に、まず理解すべきことは、相手から発せられる言葉は、すべて言葉通りに捉えられるということです。

他の多くの文化圏とは違い、オランダでは社交辞令やお世辞を言うのはまれです。つまりオランダの文化では、相手の感情を守ることより、率直であることに重きがおかれるのです。もちろん、時には誤解が生じる場合もありますが、オランダでは考えをはっきりと伝えることが当然とされています。
社交辞令を気にして率直な意見を言わないと、不誠実だという評価を受けてしまうのです。

オランダのユーザーにトレーニングを行う場合や、サポート業務としてシミュレーションを評価する場合に、この文化的な違いを意識するだけでも、円滑に業務を進めることができます。オランダの人々は、包み隠さない真実のみを求めています。

工程設定が現実とかけ離れていたり、ソルバーの設定が粗すぎたりと、シミュレーションが稚拙である場合、それをはっきりと指摘して、すべての問題を明確に伝えることが重要です。お客様に対して厳しすぎると思っても、軽微な問題まできちんと伝えなければ、それが後に大きな面倒を引き起こす原因になりかねません。

私自身にも失敗談はあります。お客様が見込み補正の前に工程全体のシミュレーションを実行していたときのことです。チェックリストを確認すると、処理を必要とする項目がまだ多く残っていました。しかし指摘する項目が多すぎると、お客様にうるさく思われるだろうと不安になり、ドロー・パネルの収縮に対応するドロー金型のスケーリングなど、必ず毎回必要とはならないオプションについては、説明を控えたのです。その結果、次工程のパネル配置で多くの不具合が発生し、その原因を特定できるまで何度もループを繰り返さなければならず、ユーザーの頭痛は悪化するばかりでした。

その後しばらく経ってから、オランダの人々は何を言われても受け止められることに気付きました。相手の感情を傷つけるかもしれないと恐れる必要はさほどなかったのです。彼らのすばらしいところは、自分が率直である分、相手の率直な意見に対しても根に持たないことです。

実際のところ、この率直さに徐々に慣れてくると、それが心地よく感じるようになりました。たとえば、トレーニングで講師を務めていると、受講者全員がうなずいて何も質問しないより、疑問に感じたことを何度も質問してもらえる方がずっと嬉しくなります。このように積極的な反応がないと、受講者が説明をきちんと理解できたか不安が残ります。オランダのオートフォーム社が(当時)管轄していた周辺国でトレーニングを開催すると、このような不安を覚えることが多くありましたが、おそらくは社会的な慣習の違いか、言葉の壁も一因だったのではないかと思います。

図2. エルネスト・アロンソ(左下)とオートフォームオランダチーム

オランダのオートフォーム社は、マーク・ランブリクスが統括しています。ランブリクスは気取ることがない経営者で、パートナーシップ感覚を大切にしています。どの職位にあっても、お客様に対するサポートを惜しむことはありません。また万人から優れた意見を聞き入れようとする姿勢を感じます。私の体験から言わせていただくと、これはオランダの会社に共通する文化であり、明確に縦割りされた組織構造にトップダウン型の意思決定が行われる多くの国々とは対照をなしています。このようなオランダの横並びな管理手法は、働きやすい職場環境や楽しく仕事をした同僚たちとの想い出として心に留まっています。そして幸運なことに、このようにフランクでフラットな組織構造は、オートフォーム社全体に浸透しています。

最後に、オランダの慣習をもう1つご紹介しましょう。手紙やEメールを作成する際に、彼らは絶対に「私」で書き始めることはありません。なぜなら単純に、誰も自分自身を前面や中心に押し出すことを「しない」のです。オランダの会社へ就職を目指す際には、英語で履歴書を作成する場合でも、この点にぜひご留意ください」