~デジタルトランスフォーメーションにおいて、プロセスエンジニアリングに精通したエンジニアの役割が極めて重要であり続ける理由~
急速に進むデジタルトランスフォーメーションを積極的に取り入れ、エンジニアリング業務や製造部門のデジタル化を進めることを検討していませんか?人間の知能が人工知能(AI)に取って代わるだろうという懸念をお持ちでしょうか?AI、ML(機械学習)、センシングや適応制御を活用したスマート生産による雇用消失を心配していますか?デジタルトランスフォーメーションの浸透が進まないことを望んでいませんか?
このような疑問を感じるのは当然のことですが、また産業革命の時代から、馬から機械へ、人からからロボットの活用へ、そして今や人間の知能から人工知能へと、これまでも同じような転換期を経てきたことも事実です。将来に対する不安を抱えているのであれば、エンジニアリングの「バリュー」を認め、デジタルトランスフォーメーションの本質を理解することが重要です。雇用を守るためにも、この転換期にどう対処すべきかを議論することに意義があります。
エンジニアリングやエンジニアは過去事例の情報や、現在起きている問題、そして新技術などさまざまな情報を集約して、最適な解決策を模索することに長けています。これはデジタルツインによって容易に自動化できるものではなく、また一部門だけで最適な解決策を導き出せるものではありません。デジタルトランスフォーメーションにおいて、エンジニアはAIやML、実行システムの競合とはならず、むしろデジタルツインを効率的かつ効果的に活用すべき立場にあるのです。
デジタルツインは製品開発を勝ち抜くためのツールですが、しかしすでに浸透しはじめているデジタルトランスフォーメーションにどう対応すべきかについては、慎重に検討しなければなりません。本稿ではデジタルトランスフォーメーションが重要な役割を担うエンジニアリングのプロセスチェーンについてご紹介します。そこで疑問に対する答えが見つかり、不安が解消されることを期待しています。
エンジニアリングのバリューストリーム
デジタルトランスフォーメーションを効果的に進めるには、各関係部門が連携し、縦割り組織特有のサイロを撤廃することが重要です。その理想的な例として、製造のプロセスエンジニアリングにおいてはカーブ型のストリームが挙げられます。これは図1が示すとおり上流と下流の両方が中心となり、バリューの創造という共通の目標に向けて意思決定のワークフローを管理する効果的な方法です。
図1. デジタルエンジニアリングのバリューストリーム(デジタルトランスフォーメーションの効率化)
プロセスエンジニアリング部門には、最も多くの情報が集約されます。製品技術と製造技術の両方が関わるためです。ストリームが曲線的であると、より多くの接触機会が生じ、効率や合理性が高まります。一方の直線的なストリームはいわゆる縦割り組織であり、共通目標を設定するのは難しくなります。またカーブ型のストリームには、製品開発と品質管理を効果的に行い、競争力を高めることができるVコンセプトを適用しやすいという利点もあります。上流のカーブは製品設計における「確認/Verification」のVであり、下流のカーブは「検証/Validation」のVです。
このようなストリームにおいて、製造のプロセスエンジニアリングには次のような特徴が挙げられます。
- 上流および下流の両方に関与(対比)
- 同時にさまざまな情報を交換(同時性)
- エンジニアリングに関する新たな視点(模索)
- 上流と下流の目標を組織全体の目標として設定(包括的)
図2. 製造のプロセスエンジニアリングの特徴
端的に言うならば、製造のプロセスエンジニアリングは他の業務よりも幅広く、複雑で、要求が厳しいのです。これらはすべて、エンジニアリングチェーンを通じて卓越性を発揮する上で極めて重要です。「対比」「同時性」「模索」「包括的」といった形容詞表現からも、こうした課題が見えてきます。
対比のエンジニアリングとは、製品機能に関するデザインと生産性に関するデザインの間で、最適な解を見出さなければいけないことを意味します。プロセスエンジニアリングの各業務にそれぞれ評価指標を設定することで、比較的容易に行えます。最近では意思決定のワークフローを短縮することが主な課題となっています。またプロセスエンジニアリングの結果から情報交換を行うエンジニアリングの同時性も、正しい意思決定を行い、前進を続けるために不可欠です。
プロセスエンジニアリングの別の課題としては、新たな分野を模索しながら、意思決定を行う必要があることです。たとえば、金型の研磨におけるトライボロジシステム、定量化された3点ゲージを活用したサーフェスの欠陥評価、サーフェスのクラック、金型のスポッティング、高度な材料モデル、変数など、以前はシミュレーションには関連がないとされてきた新たな分野に対応しなければならないのです。
プロセスエンジニアリング業務の中核となるのが、組織の目標を包括的に捉えることです。設計した機能と生産性に関わるすべての意思決定が、収益にマイナスの影響を及ぼすことがあってはなりません。設計した製造工程は、競争力のある製品開発、運用、および生産性において、現在の包括的な価値を表す必要があります。
近年、プロセスエンジニアの業務は上述のとおり大きく変化しているため、関係各部門を主導し、推進する強力な手腕が求められています。またあらゆる部門が的確な意思決定を行うには、プロセスエンジニアリングの包括的なデジタル化を進めなければなりません。つまり上流と下流のどちらもプロセスエンジニアリングに裏付けられた意思疎通や意思決定ができなければならないのです。カーブ型のストリームに沿って包括的なデジタル化を進めることで、上流と下流の両方にフィードバックが行われます。
協力体制の構築
協力体制を構築することは、組織をまとめ、共同でエンジニアリングを進める上で非常に有益です。特にデジタルシステムにはエンジニアがいる遠隔地をつなぐという利点があるため、これを採用する企業が増えています。システムが完全にデジタル化されると、異なる部門間のエンジニアの結束力が高まり、両者の障壁となっていた縦割り構造(サイロ)が破壊されます。そして各部門や組織の境界を越えて、各エンジニアがより効果的に作業できるようになるのです。
包括的なプラットフォーム
プロセスエンジニアリングには、AutoForm正確度指標やパレートの原則に示されているとおり、幅広い分野が関与しています。これらの分野を効果的に網羅するには、組織全体にまたがるシステムを整備することが極めて重要です。このようなシステムを介して、エンジニアは3Dデザインや設計した形状を扱いながら、コミュニケーションを図ったり、ブレーンストーミングなどを通じてアイデアを生み出すことができます。このようなシステムに欠かせないのがGUIであり、3Dビューアやモデラーでコントロールするだけでなく、プロセスエンジニアリングナビゲーターなども活用します。このシステムアーキテクチャによって部門間の協力体制が強化され、包括的なエンジニアリングも可能になります。
図3. 包括的なGUIシステム
デザインファイルの共有
製造のプロセスエンジニアリングに関連する3D形状の更新情報を管理するコンテナをソフトウェアシステムに組み込むことで、デジタル上で最新の情報とデザインを活用することが可能になります。誰もがあらゆるデータセットにアクセスできるため、容易に協力体制を築くことができます。またこの一元化された情報を活用することで、エンジニアはデザインを継続的に改善することができ、またプロジェクト管理者はタスク、納期、リソースを正確に管理できます。
プロジェクト管理システムにはそれぞれ独自のマイルストーンがありますが、最終的には、下流と上流の情報をすべて含むデザインファイルおよび設計した形状を使用して作業しなければなりません。すべての業務でAutoForm GUIを使用し、AutoFormデザインファイルを使用すれば、スタンドアロンのソリューションを使用し、レポートシステムやそのサマリ機能を使用してデータ情報を取得するよりも、遥かに効率的に作業を行うことができます。
デザインファイルの構造には、プロセスエンジニアリングに必要とされる機能が含まれていますが、マイルストーンごとのミーティングを簡易化できるプラグインや、必要に応じて追加できるその他のプラグイン、またはマイルストーンを拡張できるプラグインなどもあります。
デザインファイルを介したコミュニケーションに関するガイドライン
協力体制を構築する上で、活動や設計のマイルストーンを簡単に識別できるコミュニケーション標準が必要ですが、AutoFormデザインファイルにはガイドライン標準が搭載さています。エンジニアと管理者が同じ場所にいなくても、同じデザインファイルを確認しながらインスタントメッセージを通じて不具合や課題を特定し、解決策を検討できます。そのためあらゆる部門のエンジニアやマネージャーが問題に対するオーナーシップを持ち、責任をもって対応することができます。またデザインファイルを使用することで、すべてのエンジニアが簡単に連絡を取り合うこともできます。
人間の知能
将来の仕事について多くの懸念がある中、1982年にスティーブン・スピルバーグが製作・監督したSF映画『E.T.』を思い出していただきたいと思います。指で触れると出血や痛みが止まったり、自転車が街中を飛んだりする象徴的な場面に、誰もが興奮したのではないでしょうか。この映画は、新たなシステムに対して恐れを抱く場合があることを示すと同時に、新たなテクノロジがこの世界に奇跡をもたらす可能性があることを思い出させてくれます。同様に、デジタルツインはエンジニアリングに対する人間の知性に力を与えてくれるものです。エンジニアはデジタルツインを使いこなすことで、楽しみと驚きに満たされながら、最適な解決策を見つけ出すことができます。また、対比的な競争力、同時性のある納期の厳守、新たな分野の模索、プロセスチェーン全体にわたる包括性など、奇跡のエンジニアリングソリューションを実現できるようになるのです。デジタルツインの適用が進むほど、エンジニアリングからより良好な結果を得ることができるようになります。これは図4 (b) に示すように、GUIを使用することで簡単に実現できます。
(a)E.T. 映画ポスター (出典)
(b)グラフィック・インターフェース(GUI)の活用による縦割り構造(サイロ)の解消
図4. 人間と人工知能の出会い
人間の知性は、スマートエンジニアリングにおける最も強力な要素であり、デジタルトランスフォーメーションのバロメーターでもあります。デジタルツインや人工知能といったテクノロジは人間の知能と競合するものではなく、むしろ人間の知能をさらに強化する役割を果たします。人工知能は人間の知性や創造性に取って代わることはできませんが、人間の意思決定プロセスをサポートし、強化することはできます。したがって、プロセスエンジニアの仕事は人工知能に取って代わられることはなく、むしろデジタルツインを通じた作成プロセスの中核を担うことで、重要な役割を果たすことになるでしょう。人間の知性をより効果的に活用することで、下流工程に情報を流し推進する効果が生まれるでしょう。
デジタルトランスフォーメーションがもたらすチャンスをすべて受け入れることで、プロセスエンジニアは、自分自身にとっても、企業にとっても、まったく新しい世界を切り開くことができるのです。