プレス成形においてトライボロジをコントロールすることで生産の不稼働期間を短縮:フィリップス社、オペル社、TriboFormなどがタッグを組んだASPECTプロジェクトの取り組み

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こんなことが、よくありませんか? プレス成形工程が順調だと思っていたら、突如として製品の不良が判明。量産を続けるには生産を一旦停止して、プレス成形工程の設定を調整しなければなりません。このような状況を踏まえて、ASPECTコンソーシアムは、プレス成形部品に不具合が生じる原因をトライボロジの側面から研究し、成形シミュレーションを活用した予測方法と、後の実際の生産におけるコントロール方法を探りました。
ASPECTプロジェクトは、オペル社やフィリップス社など、複数の欧州企業および研究機関で構成され、消費者向け製品および運輸セクター向けの生産における摩擦およびトライボロジの影響を調査することを目的としています。

ASPECTプロジェクトについて
大量生産の初期段階では、ほとんどの生産ラインで特に大きな不具合は発生しません。通常、生産開始から一定数までの部品は、順調に生産されます。しかし、ある時点でしわやわれなどの成形不具合が生じて、量産が停止します。経験豊かなベテラン従業員は、熟練の知識を使ってさまざまな修正を行い、不稼働期間の短縮を試みます。部品製作者は、経験を積むことで量産時の部品の「工程の変曲点」を理解できるようになり、独自の修正方法を身に付けます。
これまで主な原因のひとつは、生産中の金型の温度上昇であると考えられていました。ASPECTプロジェクトではTriboFormを使い、シートや潤滑と関連付けた生産金型のトライボロジ上の挙動と、金型の温度上昇がわれやしわなどの不具合に与える影響を調査しました。不稼働期間を生じさせる要因を成形シミュレーションで事前に予測し、部品製作者が予め工程を調整できることを、この調査の目標としました。またこのような知識があれば、不具合を回避し、プレス成形ユニットの工程設定を調整するための対策を講じることが可能となります。
オペル社は、スペアのホイールウェルの量産中に発生した不具合の所見を説明しました(図1)。約500点の部品を生産するとわれが生じ、生産が停滞しましたが、これらの部品では温度に依存したトライボロジの影響が見られたため、これらを計測し、統計的に特定することができました。またこれをきっかけに、われの原因となるパラメータに対応する予防的な自動調整を求める声が高まりました。

図1: オペル社の後部ホイールウェル。深さ26cmまで大きく引き伸ばすため、成形が困難

オペル社の調査では、非接触温度計を金型に挿入し、金型の温度変化を計測しました。最初の500ストローク中に、金型の温度が20°Cから45°Cへ上昇することが確認されました。またその時点で、最初の不具合が発生しました。また、非接触温度計以外にも、部品の周りに流入センサーを取り付け(図2の0C~7C) 、8か所で生産中のブランク流入を計測しました。図2からわかるように、温度が20°Cから45°Cに上昇すると、流入が大幅に減少します。温度が上昇すると摩擦が増大し、よって、ブランクホルダの下の拘束が強まり、部品にわれが生じます。

図2:  (左)後部ホイールウェルと8つのセンサー(右)センサーが検出した温度

金型の長期的な温度上昇は部品のわれにつながり、生産停止の原因となります。生産を停止すれば、設備等すべての温度が下がります。しかし、生産停止を回避してプレス生産を継続するには、ブランクホルダ力の軽減や、潤滑剤の増量といった調整が必要です。
部品生産の継続および副次的影響の回避を目的として、ASPECTプロジェクトのチームはTriboForm摩擦モデルを作成し、ESI Pam Stampに組み込みました。シミュレーションでは、金型温度20°Cでは部品は影響を受けないという予想通りの結果を示しました。金型温度45°Cで、実パネルと同じ場所で同じ向きのクラックが発生しました(図3)。

図3: 金型温度45°Cでの部品の成形性

この調査から、温度上昇に応じて摩擦係数が増大し、よって、金型の温度が上昇すると摩擦が増大する様子が明らかになりました。トライボロジの依存を考慮した量産の影響をモデリングする上で、TriboFormの予測が正確であることが証明されました。よって、例えばストローク率の調整、ブランクホルダ荷重の軽減、潤滑剤の増量など、最適な生産を維持するための方策を詳細に調査できます。
このようにTriboForm Plug-Inを活用することで、量産時のリスクを効果的に予測し、情報に基づく意思決定を行うことができるようになりました。製品がいつ、どの温度で、どこが危険な状態となるか、正確に把握できます。そして、どのような変更をいつ行うべきか、判断できます。 よって、プレス成形シミュレーションに最新の摩擦モデルを組み込むことは、プレス成形工程のロバスト性を高める新たな方法であることが証明されました。

「摩擦の影響または工程全体をコントロールでき、
より高い温度が引き起こす摩擦の影響を補正することができれば、
不良品を回避でき、生産のコスト効率が大幅に高まります」。
アルベルト・エムリヒ博士

 

出典論文:“Temperature dependent friction modelling: The influence of temperature on product quality” by Daan Waanders from TriboForm Engineering in the Netherlands, Javad Hazrati Marangalou from Nonlinear Solid Mechanics of the Faculty of Engineering Technology at University of Twente, Matthäus Kott from Opel Automobile GmbH, Sabrina Gastebois from ESI Group, and Johan Hol, TriboForm. 下のリンクをクリックして出典論文をダウンロードしてください。https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2351978920312154

この研究はASPECTプロジェクト、 『Advanced Simulation and Control of Tribology in Metal Forming Processes for Consumer Goods and Transport Sectors』にて実施されました。共同出資:The INTERREG North West Europe programme www.nweurope.eu/aspect