はじめに
米国のオートフォーム社ではお客様から珍しい依頼を受けました。短期集中型のシミュレーションのトレーニングをご希望でしたが、それを部署のマネージャーが受講するというのです。
エンジニアリング部署のマネージャーは、通常、エンジニアの業務を確認して承認を行う立場にあります。しかし業務に使用するソフトウェアを定期的に使用する機会がないマネージャーは、その業務内容を把握することが難しいと感じていたのです。同社ではある部署で完了した業務が次の部署に渡る前に、そのマネージャーが承認すべき業務の内容を的確に理解することで、業務効率がさら高まることを期待していました。またオートフォーム社もこのような取り組みが価値を生み出すという点に同意しました。
本稿ではシミュレーションの確認業務において、マネージャーが直面しうるさまざまな状況への対応策、そしてシミュレーションが実物や製造現場と合致していることを検証する方法について説明します。
マネージャーによる確認内容
製造のあらゆる段階において重要になるのが、デジタルの世界と現実世界の関係を理解することです。エンジニアリング部署のマネージャーはシミュレーションのトレーニングを受けていないため、まずAutoFormソフトウェアのインターフェースに戸惑うかもしれません。そのためシミュレーションの設定や実行にはどのようなものが必要で、シミュレーションの結果が何を意味するのかを理解することから始めます。
図 1: AutoFormにおける考慮すべき項目
エンジニアリング初期段階のフィージビリティ検討と後期段階の最終検証には共通する加工条件が必要ですが、後者には、はるかに詳細な条件設定が求められます。
図2:シミュレーションの必須パラメータと詳細パラメータ
開発のマイルストーンとは別途、マネージャーが担うべき役割として、設定が最適であるか、またシミュレーションが「健全」であるかを確認し、結果を確認する必要があります。またシミュレーションが会社標準に適合しているか、またどの部分が逸脱しているかを特定し、それを修正する方法も理解する必要があります。
マネージャーを対象としたトレーニングでは、このような確認業務を効果的に行い、より優れた設定を提案および導入することで、開発プロセス全体のさらなる効率化を図ることを目的としています。そこでまずはこれまでマネージャーによる確認業務がどのように行われてきたか、簡単に見てみましょう。
これまでのシミュレーション確認方法
エンジニアが扱う技術業務の有用性、機能、目的について、そのマネージャーが十分に理解していたとしても、大抵の場合、マネージャーはシミュレーションのソフトウェアについてまで把握する時間的余裕はないようです。そのためシミュレーションの結果をインタラクティブに解釈することが難しく、また関連する成功事例についても理解不足に陥りがちです。そのためマネージャーは問題を改善または解決に導く提案ができるとは言い難いのが現状です。
シミュレーションをより効果的に確認できる新たなプロセス
このマネージャーを対象としたAutoForm短期集中トレーニングでは、AutoFormソフトウェアに触れ、慣れ親しんでいただくことで、以下に対応できるようになることを目的としています:
– シミュレーションの加工条件を確認し、標準に適合していることを確認
– シミュレーション結果の確認
– シミュレーション結果の可否に関する判断
– 望ましい結果を得るために必要な設定変更について提案
シミュレーションにおける基本として、設定条件が良好でなければ、良好な結果を得ることはできません。どの会社にも長年の経験から培われた適切な設定があり、それが以後のシミュレーションのベースとなってゆくのです。AutoFormの標準機能はこのような事例を集約し、シミュレーションの設定時に標準を適合させる機能です。これで設定に一貫性を持たせることができます。またこれを活用すれば、マネージャーもシミュレーションの設定が標準に適合しているかを簡単に確認することができます。マネージャーにとってはこの標準機能を使いこなすことで、エンジニアによるAutoFormの活用状況を効率的に監督することができるため、このトレーニングでも重点課題となっています。
クリックを数回行うだけで、正確な結果を得るためにはどのパラメータを変更または含めるべきかをすぐに特定できます。AutoFormにて設定された表示ルールにて確認すると、社内標準から外れている部分がすべて黄色になります。次に標準を適用すると、現実から逸脱しているシミュレーションのパラメータが即座に特定されます。
図3:AutoFormの工程ステージでデザイン標準を適用した例
マネージャーによるシミュレーションの確認業務では、見過ごすと下流工程で重大問題となりうる不具合を発見し、その対策を促すという非常に重要な役割が課せられています。重大な不具合から些細なものまであらゆる不具合は、この段階で修正すべきです。なぜならばトライアウトまで進んでしまうと、修正作業ははるかに複雑になり、また膨大な時間とコストを要することになるからです。
シミュレーションが「健全」でなければ、信頼できる結果を得ることはできません。シミュレーションで警告が出たら、その原因や要因を特定して対策を検討する必要があります。警告の中には無害な通知もあれば、即対応すべき重要情報もありますが、中でも「show stopper」とも呼ばれる致命的問題については、結果が出る前に対応しなければなりません。これは収束に関する警告であり、特にタイムステップが不安定であることに起因します。しわが局所集中していたり、金型のギャップが不十分であったり、特定のタイムステップで材料が過多に変形しているなど、さまざまな状況から生じる可能性があります。
図4:しわの局所集中による収束エラー
警告はシミュレーション実行の最後に多くのことを教えてくれますが、シミュレーションの適切な設定を知ることは、最初の段階で警告を回避し、確かな結果を得るのに役立ちます。この短期集中トレーニングでは、このような警告とその対策だけでなく、さまざまな工程や状況で確認すべき設定パラメータについても学習します。特にインポートした形状のメッシュ設定や対称設定、工程計画の公差や警告、工程ステージで扱う金型動作などを重点的に扱います。
シミュレーション設定が健全であること、また標準に適合していることが確認できるようになると、次にマネージャーに求められるスキルがシミュレーション結果の適正な解釈です。これには反復的かつ体系的なアプローチが欠かせないため、トレーニングを受講していただくことをお勧めします。
新たなシミュレーション確認方法による利点
エンジニアリング部署のマネージャーにAutoFormソフトウェアのトレーニングを受講していただくことには、以下のような利点があります。
改修やトライアウトの回数削減
シミュレーションの段階で不具合を修正できれば、最終部品を設計する段階での修正やトライアウトの回数が削減されます。トライアウトにはそれぞれ数日から数週間ほど要し、コストもかかります。シミュレーションを活用して初期段階から不具合をつぶしてゆくことで、数カ月におよぶ開発時間を数週間から数日まで短縮することが可能になるのです。
不具合や結果の包括的な理解
エンジニアリング部署のマネージャーがシミュレーションの設定をより包括的に理解することで、様々な問題に対処するスキルが向上します。この短期集中トレーニングでは、以下の評価コンセプトについて重点的に学習します。
– 成形性の許容範囲
– 有効な成形荷重の確認
– 部品寸法の評価
– 工程の再現性
図 5:AutoForm の高度な成形性
エンジニアが何を意図してどのような作業を行ったのかを理解する必要は全くありません。マネージャーはただファイルを確認して問題点を洗い出し、それをもとにエンジニアに指示を出すだけでよいのです。
製品化までの時間を短縮
マネージャーによる確認業務を効果的に行うことで創出される最大の利点が、製品化までの時間を短縮できることです。現況の市場は変化が著しく、また競争も激化しています。競合他社よりも早く製品を発表することで、ブランドの認知と顧客の信頼を築くチャンスが高まります。
シミュレーションの確認業務を効果的に進めることができれば、製品の市場投入までの期間を大幅に短縮でき、会社の優位性がさらに高まります。
コスト削減と利益拡大
コスト削減こそがシミュレーションを効果的に確認することで創出される最大の副産物となります。シミュレーションの確認業務に多少の時間を費やすことで、コスト削減の可能性が飛躍的に高まります。
- トライアウト回数の削減
- 開発時間の短縮
- 工程改善の効率化