英国SATE社:シミュレーションを活用した航空宇宙部品の設計・生産の推進

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はじめに

シミュレーションソフトウェアは、自動車業界において長年活用されてきましたが、現在では航空宇宙業界においても、部品設計やプレス成形工程にて導入が進んでいます。

本稿では、英国に拠点を置く航空宇宙部品メーカー、SATE (Senior Aerospace Thermal Engineering) 社がシミュレーションソフトウェアを導入し、当初は想定しきれなかったさまざまな活用法を見出すまでの取り組みについてご紹介します。

SATE社について

1988年にジェフ・ミルトンとトレバー・ミルトンの兄弟によって設立されたSATE社は、2013年のシニアエアロスペース社による買収を通じて、航空宇宙業界のプレス成形分野における大手企業となりました。

同社は最大1000度に達する4台の大型熱間プレス成形機を保有しており、航空宇宙部品の製造に不可欠な熱間ブランク、熱間金型、熱間プレス成形に対応しています。これらのプレスは主にチタン合金向けに使用されています。

一方、熱間金型の急冷設備では、主にニッケル基合金の大型部品を加工しています。この複雑な工程では、部品を高温に加熱した後、急速に室温の金型へ移し、最終形状へ深絞りします。その後、小型プレス機でゆっくりと成形します。別途、熱処理に対応したアルミ加工設備では、ストレッチ成形、深絞り、フランジ加工などを行っています。

SATE社はプレス成形と断熱のソリューションを専門としており、生産工程の中でも特にプレス成形が主軸となっています。また断熱材についてもSATE社独自の技術力を有しています。油圧プレスを用いて薄板を剛性化・成形するほか、断熱材を挟み込むインナースキンやアウタースキンの製造にもプレス機を活用しており、これが同社事業全体の半数を占めています。

部品のトリミングには3台のレーザー切断機を活用しています。また、プレス成形、機械加工、非破壊検査のサポートサービスや、表面酸化物を除去する化学処理も行っています。

図1: オートフォーム社トム・スコットとSATE社ダレン・ゴフェリー

SATE社従来のプレス成形手法

SATE社では数十年にわたり実施してきたプレス成形プロセスのワークフローがあり、そこでは部品設計をトライアンドエラーによる反復的なサイクルで行ってきました。新製品導入(NPI)プロジェクトでは、部署の担当者がブランク形状を推定し、プレス成形を行い、部品に不具合がないかを評価するといった手順を追っていました。そして次に、技術者がCADを使って、材料の調整、ブランクの再切削、部品の再成形を、目標とする結果が得られるまで繰り返します。

このトライアンドエラーには、通常、約8回のサイクルを要し、このような試験には別途材料も調達しなければなりません。

熱間プレス成形の85~90%にて高価なチタン合金Ti-6-4(Ti6Al4V)を用いるため、このトライアンドエラーには膨大なコストがかかります。Ti-6-4シート、2m×1m×1mmのサイズで約2000ポンド(約41万円)かかり、1枚あたり製造できる部品は中型サイズのものが約4個です。試験には2枚のシートが必要であり、またエンジニアリング費用やレーザー切断のコストも加わるため、プレス前にかかるコストは膨れ上がり、優に5000ポンド(約100万円)を超えることもあります。

しかし問題は成形前のコストだけではありません。特殊な熱間プレス成形でも、プレス機で35~40分もの間、部品を高温で加熱するなど、多大なコストが生じます。製品が要求を満たすまで同じプロセスを繰り返すため、NPIプロジェクト1件あたりのコストは総額数万ポンドに達する場合すらあります。このプロセス全体には数週間もの期間を要するため、NPIが遅延するとコストはさらに膨らみ、益々お客様への訴求効果がなくなります。

トライアンドエラーの手法では、基本要件以上に部品を改善することが難しくなります。部品が最低限の要件を満たすと、さらなる改善を追求するには時間やコストが上乗せされるため、実際には難しいです。ある領域の軽微な板減といった問題については、ブランク形状や成形パラメータ(速度やプレス荷重など)を最適化するにはコストがかかるため、よく見過ごされてしまいます。

シミュレーションの導入

最終段階に至るまでの時間とコストを削減する上で、トライアンドエラーの手法に代わりシミュレーションを導入することはSATE社にとって長年の優先課題でした。これによりNPIプロジェクトを迅速に進めることができるだけでなく、新規案件の獲得においても有利に働きます。プロセスの実効性、金型規模、関連コストについて包括的な評価を顧客に提示できることは、とても大きな利点となります。

しかしながら、シミュレーションの導入について、経営陣は当初否定的でした。SATE社では創業以来、プロトタイプのみの手法を用いてきたため、このシミュレーションは全く未知のものでした。この不安は、AutoFormで設計した金型を用いて最初のプレス部品ができるまで続きました。

シミュレーションの効果

シミュレーションはSATE社のプロセスに革命をもたらし、従来の手法とは比較にならないほどのメリットをもたらしました。主なものを以下に挙げます。

1. 高精度なTi-6-4モデル:

AutoFormのTi-6-4モデルは700度においても非常に精度が高く、成形性とフィージビリティの評価に大いに役立ちました。そして迅速に信頼できる結果を得ることができました。

2. 使いやすさ:

SATE社は図面をもとに製造を担う企業であるため、設計業務には重点を置いておりません。AutoFormを扱うのは主に製造技術者や金型技術者であり、実践的な応用には優れていますが、プレス成形に関する理論的知識レベルにはばらつきがあります。ただしAutoFormは使いやすいソフトウェアであるため、SATE社の技術者たちは、その使い方について、自己学習やトレーニングを通じて1年で習得することができました。

3. 事業成長:

AutoFormのシミュレーションではさまざまなプレス成形を正確に再現できるため、プロジェクト入札では有利に働きます。設計のフィージビリティを詳細に評価することで、実物を試作するよりも前に、ライブシミュレーションや動画を通じて特定の工程を説明し、詳細な仕様を提供することが可能となりました。ブランク展開は、成形性の向上と材料コスト削減の両面で、極めて重要な役割を担っています。こうしたシミュレーションの取り組みを通じ、SATE社は顧客の信頼を勝ち得て、従来以上に多くのプロジェクトを獲得できるようになりました。

4. ソフトウェアでの金型設計の開発:

AutoFormが評価されるべき点として、ソフトウェア内で金型設計を直接開発・修正できることが挙げられます。他の手法では、修正はCADで行う必要がありますが、AutoFormの金型設計機能を活用することで、大幅な時間短縮を実現できるだけでなく、金型工場で修正を検討することもできます。

まとめ

SATE社はシミュレーションをワークフローに組み込むことで、プレス成形の精度と効率が飛躍的に向上しました。製造プロセスの合理化によりトライアンドエラーのループが大幅に削減し、バーチャル上で反復を行うことで、品質を損なうことなく、厳しい納期に対応することが可能となりました。

シミュレーションは生産コストの削減のみならず、バーチャルの環境で潜在的な課題を特定し対策を講じることで、製品品質の向上にも寄与しました。また、材料の無駄を削減することで製造プロセス全体の持続可能性を高めました。

要約しますと、SATE社はプレス成形シミュレーションの導入により、アジャイルかつ将来を見据えた体制を構築し、また資源効率を重視する姿勢を確立することで、競争力をより一層強化できました。

※参照為替レート:1GBP = 208.4JPY(2025/12/11)