シミュレーション精度向上に関するご紹介

はじめに

オートフォームジャパンではシミュレーションの予測精度向上や、より効率的なシミュレーションの活用にご関心をお持ちのお客様を対象に、プロジェクト活動を推進しています。本稿では、精度向上プロジェクトを推進するにあたり「より良いシミュレーションとはどうあるべきか」という基本原理を決める際に参考としている、いくつかの考え方についてご紹介します。(※2021年6月に実施したWebinarの内容より一部抜粋)なお、究極のゴールとしてはよりよいシミュレーションをすることではなく、いかにシミュレーションを実業務に役立てるかだと考えています。その過程として、より精度の高いシミュレーションが必要になることは多くありますが、あくまで一つの要素であることを最初にお断りしておきます。

「Simulation」とは?
まず、「シミュレーション」とはそもそも何なのか、言葉の定義に立ち返って確認してみます。

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大辞林 第三版の解説

シミュレーション【simulation】

① 物理的あるいは抽象的なシステムをモデルで表現し、そのモデルを使って実験を行うこと。実際に模型を作って行う物理的シミュレーションと、数学的モデルをコンピューター上で扱う論理的シミュレーションがある。模擬実験。
② サッカーで、反則を受けた振りをして審判を欺こうとする行為。反スポーツ的な行為として警告の対象になる。

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ここで注目すべきは、物理的、論理的にかかわらずシミュレーションとは「実験」を意味する言葉であるということです。当然物理的な実験であれば、必要な情報や器具がそろわないと始められないわけですが、論理的シミュレーションの場合はある種「適当」でも実施することができてしまいます。しかし、言葉の定義通り実験を行うという考え方に沿って考えれば、必要な情報や器具は常に可能な限り準備するべきだということは自明でしょう。

またもう一つ注目すべき点としては、物理的、論理的にかかわらず本来現象を調べたい対象に対して、「モデル」を使って表現する実験であるというところです。つまりここには明確に、どんな現象を表現したいかという目的意識が必要になります。

シミュレーションの目的

自動車業界のプレス生産技術領域においては、金型作成前にバーチャルでシミュレーションし、われしわなどの不具合に事前対策を検討したり、あらかじめスプリングバック量を予測したりして、見込み補正を施すために使用されます。実物の金型を作り直しての補正と比較して、何度でもやり直しが可能で、コストが安く(ゼロというわけではない)、リードタイムも短くなります。できるだけ実物に近いシミュレーションを行うことで、事前検討の品質が向上し、知識や経験をデータ化することもできます。

つまり、以下のようなことが重要になってきます。

  • 使用する目的に合致し、かける時間とコストに対して十分妥当なシミュレーションを行うこと
  • 精度が高いに越したことはないが、精度を高めること自体は目的ではない
  • 品質の良い製品(完成車)を安く早く作る補助をするのが目的

では、「十分妥当なシミュレーション」とはどのように検討、検証するべきなのでしょうか?以下の章で一つの例をご紹介します。

妥当なCAEを実施するためのV&Vフレームワーク

シミュレーションの妥当性の保証は作業担当者一人の責任にされることも多く、ほとんどのエンジニアにとって非常にストレスのたまる大きな課題と言えます。妥当性を評価し、より良い解析を実施するための枠組みとして、オートフォームでは機械学会の提案する以下のフレームワークを参考にしています。

※ASME(アメリカ機械学会)チャートの和訳(https://www.asme.org/)

基本的には、シミュレーションを利用した業務を進めるにあたってのステップが定義された図となっていますが、数値モデルによるシミュレーションと並列で実物の製作も進めています。この枠組みのポイントとしてはVerificationとValidationを含む適切なループを回していくことで、シミュレーションの利用価値を高めていくことができるというところです。Verificationには2種類あり、一つはプログラムそのものの検証、もう一つは計算実施の検証です。机上計算ができるようなモデルとの比較によるソフトウェアそのものの検証については開発者側の責任であり、それを実際に試してみるのは一部ユーザー側でも可能です。そして最も重要なのは、Validationのステップです。ここでは、実物と数値モデルについて、「有用であるか」「妥当であるか」をポイントとして比較し、フィードバックを行っています。もし何か問題があればそれをきちんと比較の上見つけ出して、最初の段階に戻り、数値モデルもしくは実物のモデルを修正するループを回すことで、シミュレーションの妥当性を高めることができます。また実物、シミュレーションの両面で常に「不確かさ」があることに留意することも重要なポイントと言えます。

修正の傾向

妥当性検討のループの中で見つかった修正点は、以下に示すようなものが例として挙げられます。プレス金型の歴史は非常に古く、難しい材料や工法でなければ実物の作りこみについてはある程度安定していると言えます。(下図右)一方ソフトウェア領域においては、どのソフトウェアもある程度のレベルに達しているということができます。(下図左)このような状況を考慮すると、最も精度や価値上昇の伸び代があると考えられるのは、ソフトウェアをどう使うか、実物をどうバーチャルに反映するか、という運用の部分になってきます。(下図中央)

まとめ

シミュレーションの価値を向上し、より有効に活用するための基本的な考え方の一つとして、V&Vのフレームワークをご紹介しました。今後より多くのプロジェクトが進み、実際の成功事例をご紹介できることを期待しています。