ロシアにおけるプレス成形の進化: Per Aspera ad Astra (困難を克服して星を目指す)

Alpha Automotive Technologies社ウラジーミル・キリチェンコ氏がロシア国内産業の発展を確認

 ブラジルからロシアまで、世界のさまざまなOEMと事業取引がある場合、円滑で運用性に優れたビジネス・モデルが成功の原動力となります。Alpha Automotive Technologies社のプロセス・エンジニアであるウラジーミル・キリチェンコ氏とデーヴィッド・ハチャトゥリアン氏は、データの整合性こそが必須条件であると提唱しています。“Per Aspera ad Astra”、つまり「困難を克服して星を目指す」ということです。本稿では、あるロシアの部品製造メーカーが、欧州OEMに部品供給を行う上で、シミュレーションの活用を通じて問題解消に至った事例をご紹介します。

 ロシアのAlpha Automotive Technologies社では、金型を海外から輸入し、国産の材料を使用した自動車プレス成形部品の製造を行っています。ボディ・サイドの外板パネルを中心に、ルーフ、ボンネット、トランクなど、幅広い自動車部品を専門に扱っており、ボンネット・インナーやドア・インナー、そして各種補強材など、大型の構造部品も納入しています。かつてモスクワの中心部にある旧ZIL工場から工業地帯にプレス工場を移転する際、部品納入に遅延を生じさせないことが大きな課題となっていました。またこの移転の時期に納入需要が過去最高であったことも、納入遅延が懸念される一因でもありました。このような時期においても高い業績を維持できたのは、チーム全体の功績です。またデジタル・エンジニアリングも、大きな役割を果たしました。

 Alpha Automotive Technologies社では、営業部門と事業開発部門が一体となり、シームレスな運営を行う、非常に実践的な手法を用いています。さまざまなクライアントから打診をいただくだけでなく、当社からも新規事業の開拓を積極的に行っています。当社のプロセス・エンジニアリング部門では、営業や事業開発担当者から新規プロジェクトのデータを受け取ると、正確なエンジニアリング・コストの算出および適切な見積りの作成といったフォローアップを行います。これがエンジニアリング検討の第一段階となります。この見積りが適切であれば、クライアントとの取引が始まります。当然ながら、製造と価格の両面を正確に推定するには、ソフトウェアが不可欠です。AutoFormソフトウェアを活用すれば、必要なブランク・サイズとプレス荷重を正確に計算できます。ソフトウェアがなければ、特にボディ・サイド・パネルのような大型部品の場合、当社のプレス機で十分な荷重を担保できるかの判断に困ります。自動車は、約5年おきに大型化しています。Alpha Automotive Technologies社では対応できる最大荷重が明確に規定されているため、プロジェクトの入札時には、AutoFormを活用して必要な荷重要件を推定しています。高張力材で厚みのある小物部品が増える中、この機能は非常に有用です。そして、入札時の案件に責任をもって取り組むことができます。

 Alpha Automotive Technologies社が大きな成功を収めたプロジェクトには、ロシア市場にて圧倒的優位を誇る大手OEMのボディ・サイド部品生産があります。新たな軽量自動車の安全性と性能を高めることが最重要課題であることから、この大手OEMが最も信頼のおける製造メーカーと提携することは明らかであり、またそのメーカーにはあらゆる面で高精度なエンジニアリング・プロセスが要求されます。当社ではすべての金型のエンジニアリングにAutoFormソフトウェアを活用しています。しかしその金型は、ここモスクワで製造するわけではなく、主に中国および韓国に発注しています。

 AutoFormを活用したデジタル・エンジニアリングは、ワークフロー全体に関わる重要なステップであり、ロシア国内のプレスラインで実施するトライアウトに不可欠な役割を担っています。多くのプレス工場に共通する問題として、金型メーカーの工場でトライアウトが成功しても、生産現場のプレスにおいては不具合が生じる場合があるのです。不具合発生時にはAutoFormで分析を行い、適切な判断を行っています。シミュレーションによる分析結果から、金型成形面の修正が必要だと判断された場合には、AutoFormで作成したデータを、機械加工用データを作成するNX、CATIAまたはAutoCADへ転送します。また当社では、スキャンしたデータをAutoFormシミュレーションに適用した事例もあります。稀に、金型メーカーのトライアウトで行った修正が金型のCADモデルに反映されていない場合には、リバース・エンジニアリングを行うこともあります。

図1:金型のスキャン

 

 

図2:ドロー工程の終盤(0.7 mm手前)に不具合が発生

図3:赤丸のエッジ形状を削除して板減を回避

図4:(左)オリジナル形状(右)カウンタ・バーをカットした結果

 このようにお客様の品質基準をクリアした時点で、初めて生産開始にゴーサインが出るのです。国内市場向け部品製造の品質を担保することが、欧州および南米向け部品製造の機会を引き出し、またその品質基準を満たすことも証明できたのです。

 デジタル・エンジニアリングを活用すれば、海外から輸入した金型でも安定した生産を行うことができます。たとえば、ボディ・サイドのリヤ・ドア開口部のトリムラインを正確に定義するという課題に取り組んだときのことです。プロセスの開発段階において、金型メーカーはお客様から指定されたOEMデータベースの材料カードを使用し、AutoFormでシミュレーションを行いました。OEMデータベースの理論値と同様のパラメータが設定された材料を使用したところ、シミュレーションの結果は良好であり、ブランク形状の計算も非常に正確で、金型メーカーによるトライアウト中にわれは発生しませんでした。

図5:ボディ・アウター側のドロー工程でわれが発生しました

図6:初期ブランクでは、複数の半径でカットアウトを試しました

図7: 最終的に、R120以上で不具合が解消

 しかし金型の納入後、自社工場でトライアウトを開始したところ、リヤ・ドア開口部の下角部に大きなわれが発生したのです。分析の結果、ロシアで生産された材料と国外の材料では、機械的特性に相違があることが判明しました。そこでロシアのコイル・サプライヤーに、その材料等級と板厚が反映された材料カードの提供を依頼しました。その後、さらにシミュレーションを重ねることで、トリムラインの正確な形状と位置を特定することに成功しました。

 この事例から、ロシア国外の金型メーカーでトライアウトを行う場合は、材料データの相違に注意すべきであることが明らかになりました。主に材料の範囲と公差で、特性が若干異なる場合があります。材料を詳細に調査し、新たな材料を作成することで、われなどの不具合を回避でき、納期を厳守することが可能になります。特に海外から材料を輸入する場合は、材料のばらつきに対応するため、ロバスト性の検討を行うことが重要になります。

 別の事例として、6年前にOEMから材料データベースを入手すると、その材料は当社が使用しているロシア産の材料と大きな相違があることが判明しました。残念ながら、熟練の技でさえ、正確な材料特性に代わるものではありません。シミュレーションの精度を高めるには材料試験が必要ですが、当時のAutoFormデータベースには、まだロシアのサプライヤーから材料データは提供されていませんでした。その後、当社のサプライヤーとオートフォーム社が協議を重ねた結果、Severstal社やMMK社といった企業の材料がデータベースに登録されるようになりました。

 国際的なOEMと協働する他のTire1サプライヤーと同様、私たちもお客様の指示する手順に沿って業務を行う必要があります。大手OEMとのパートナーシップの中で、その多くが独自のフォーマットやチェックリストの手順を持っており、多くの新しいシミュレーションの標準が確立してゆきました。そのため、サプライヤーがシミュレーションのパラメータを調整したり、独自の結果を出したりするときは、お客様との一貫性を保つために、サプライヤーも同じ手順を守らなければなりません。シミュレーション結果の画像を用意し、メモを添付し、不具合があれば、その不具合をどのように特定したかを明記します。その後、必要に応じて報告書を確認し、さらに詳細に調査を行います。このように定型化された手順を踏むことで、上流へ提案書と併せて十分な情報を伝達することができ、変更依頼を行うことができるのです。

 Alpha Automotive Technologies社では、現在、多くのOEMと取引を行っているため、複数の納品方式を効率的に統合できる柔軟なエンジニアリング・ソフトウェア・ソリューションを必要としています。そのために、社内外のコミュニケーションにおいて、下請け会社から当社、そして上流のお客様まで、スピードや生産性が担保されたシームレスな情報伝達が不可欠なのです。そこで、大きな効果を創出できるソフトウェアこそが、成功への鍵となるのです。AutoFormのソフトウェアの優れた柔軟性、正確性、応答性のおかげで、プレス工場の移転期間中も、クルーズ・コントロールを使ったような操業が実現しました。Alpha Automotive Technologies社は、AutoFormソフトウェアの強力なサポートに支えられてこそ、長期的な事業発展を継続できると確信しています。

 ロシアのことわざに、当社の仕事に対する姿勢を見事に言い表しているものがあります。“Дорогу осилит идущий.” これを直訳すると、「道は歩く者が究める」という意味になります。つまり、実際にプロジェクトをスタートさせ、物事を進めていくことでしか、成功を収める道はないのです。今後の展開としては、今はプレス成形部品の納入で成功を収めていますが、次はアセンブリに意欲を燃やしています。

 AutoFormのおかげで、Alpha Automotive Technologies社は優れたプロセスの開発に成功し、生産を開始することができました。