明日の天気とシミュレーション

前書き

シミュレーションの予測精度向上についてさまざまな取り組みが紹介されていますが、本稿では予測技術の精度向上とその活用に取り組む意義や動機について、最も身近に利用されている天気予報と対比しながら考えていきます。

(気象庁HPより)

天気予報の予測の仕組みとは?
 まずは、天気予報の仕組みについて簡単に調べてみます。気象庁のHPには以下のような説明が書かれています。大まかな流れとしては、人工衛星などを含む多種多様な観測データである入力情報をもとに、全国の気象台の予報官とスーパーコンピュータによる天気の予測を行っています。ここで、入力情報の一部である宇宙からの情報は、製作、打ち上げ、運用を合わせて約850億円をかけた気象衛星から収集され、データ集計やシミュレーションは7~8億円かけて整備したスーパーコンピュータによって行われています。そして、最先端のテクノロジーを駆使していても、最終的な判断は人間が行っています。ここで紹介している費用はあらゆるもののうちごく一部でしかないことは言うまでもありませんが、いかに「実測」、つまり入力条件の収集と実際に起きていることからの情報収集に力を注いでいるかは規模感から明らかと言えるでしょう。

 一方製造業においては、必要な入力データを準備し、順番にGUIに入力し、必要最低限のデータがそろった時点で計算を実行することができ、結果が得られます。天気予報も一種のシミュレーションととらえることもできますが、どの程度の入力情報を用意できるかが予測精度に大きな影響を与えるという点では同様と言えます。現在日本の天気予報においては、雨(時間雨量1mmを超える降水の有無)の予想的中率は近年85%を超える精度と報告されています。なお、AutoFormに対する入力情報の品質と期待される予測精度については、当ブログの別記事やWebinarでも紹介しているため、本稿での紹介は避けますが、予測技術におけるインプットの重要性については分野を問わず重要であることが分かります。

天気予報の利用
 天気予報をまったく参考にしないという方は少ないのではないでしょうか。明日傘が必要かどうか、週末屋外レジャーを楽しめるかどうか、車で外出するにしても、渋滞するかどうかは天気に左右されることもあるので、多少なりとも天気予報は生活の一部に取り込まれているはずです。とはいえ、普段の生活においては晴れの予報で傘を持たずに出かけたときに雨が降ったからと言って、それほど困るわけではございません。雨宿りするか、多少濡れるのを我慢すればいいからです。本稿では、命にかかわる場合と、ビジネスにかかわる場合の二つに注目して例を考えてみましょう。

天気が命にかかわる場合
 天気予報が命に係わる例として、登山があげられます。挑む山の難易度や季節にもよりますが、たとえ天気予報が晴れで、日帰り登山であっても雨具や着替え、体温を保つためのシート、非常食などの傾向が推奨されています。もし何かがあった場合に命を守るための備えであり、このコストを惜しむと大変なことになる可能性があります。なぜなら山の天気は変わりやすいからです。このケースではリスクの対象が命であり、また予測が難しいことが広く知れているため、備えが必要なことが非常にわかりやすいです。

 同様に、ハイテンのスプリングバックは変わりやすく、大外れすると致命傷になる可能性があります。我々AutoFormは言うまでもなくシミュレーションによる十分な検討と、一度のシミュレーションでは予測できないばらつきまで考慮した、ロバスト性解析の実施を推奨しています。

シミュレーションのインプット・パラメータとシミュレーション結果に対する影響

天気がビジネスにかかわる場合
 民間の天気予報会社の記事によると某コンビニチェーンでは以下のように天気予報を利用しています。

 コンビニの商品は、店長や従業員が発注しています。その際に参考にするのが、本部から提供されるストアコンピュータの天気予報です。「天気予報は店舗ごとにピンポイントで1週間先まで提供しています。店舗はその天気予報を基に、日々仮説を立てています。時間ごとの天候、最高気温や最低気温、前日差しや湿度による体感気温、さらに近隣の催事などの情報、近隣施設の情報、曜日特性などさまざまな情報から品目ごとの発注個数を決めています」(一部抜粋)

 ここで重要なのは、天気予報は仕入れ量を決める一つの基準でしかなく、それをもとに人間が仮説を立てて評価をしていることです。利益を上げられるかどうかは、天気予報をどのように解釈して仕入れ、販売するかにかかっていると言えます。

 このケースにおいては、一度の失敗では致命傷にはならないことが多いため対策検討の必要性が認識されにくい一方で、日々の積み重ねが多店舗との差を生み将来的な経営の成否を左右することとなります。

 シミュレーションの領域においても、ソフトウェアそのものの操作に加えて、結果の解釈や対策検討にとどまらず、ソフトウェア以外の部分も含めた運用方法の検討、スケジュール管理、実物からのフィードバックなどの活用が進んでいるユーザー様のほうが、予測精度自体も高い傾向にあると感じるのは、単なる手前勝手な思い込みだけではないのかもしれません。

まとめ
 昨今地球温暖化の影響からか、従来の天気予報では予測することが難しい、これまでにない天候が多発しています。同様に自動車業界においても、持続可能な社会の実現を目標に掲げ状況は大きく変わりつつあります。シミュレーションは限られた領域のマニアックで専門的な技術ではあるものの、新たな規制への対応や、さらなる価値の創出による継続的な発展に、微力ながら貢献できることを願っています。