自動車業界向け金型製造分野において、EPALFER社は20年余りの間に、ヨーロッパ有数の独立したメーカーへと成長しました。ポルトガルのセガデスに拠点を置く同社は100名近くの従業員を擁し、試作や小ロット生産向けの設計、製造、トライアウトを提供し、また順送金型やトランスファ金型にも対応しています。
創業者であり CEO のエドゥアルド・オリベイラ氏とビジネスパートナーのパウロ・アルメイダ氏は革新的な取り組みを続け、常に大きなリスクを抱えつつも結果的には大きな成果を出しています。本稿では、EPALFER社が小さな地元企業から世界の自動車金型業界でも有数の大手企業へと成長するまでの道のりと、それに伴う忍耐力、ビジョン、そして徹底した卓越性の追求について、オリベイラ氏が綴ります。
図1: エドゥアルド・オリベイラ氏(左)とパウロ・アルメイダ氏
小さな始まり、大きな野望
2002年にパウロと私がEPALFER社を立ち上げたとき、私たちのビジョンはシンプルでした。それは難易度の高いプレス部品を効率よく高精度に製造できる会社を作ることでした。しかし年月と共に、イノベーションと高度な技術、そしてお客様との強固なパートナーシップを基盤とする企業へとさらに大きな成長を遂げました。
パウロと私は以前から金型製造業に従事していました。この業界を熟知していた私たちは、自分たちで何か新たな事業を立ち上げるチャンスがあると考えたのです。しかしそれは決して簡単なことではありませんでした。従業員は2名のみ、私は設計を担当し、パウロは生産を担当していました。
当初は装置業界向けの金型を製造する小さな事業からスタートしました。これは創業当初の主な収入源となり、同時に金型製造業界に確固たる基盤を築くこともできました。しかし事業を成長させるには方向転換が必要だと気付くまで、それほど時間はかかりませんでした。自動車業界は規模が大きく、より難易度の高い要求に応じなければならない市場でした。この分野へ参入するには、技術やスキルに対する大きな投資が必要でしたが、私たちは覚悟ができていました。
図2: 現場でのエドゥアルドとパウロ
型破りな戦略で大手に快勝
EPALFER社が市場に参入した当初、業界内の激しい競争にさらされました。欧州の金型製造業界には、大手企業と長年にわたり取引がある老舗企業が数多く存在します。その市場に参入することは、決して簡単なことではありませんでした。
しかし私たちは突破口を見出しました。老舗企業の多くは依然として旧式の技術を用いていたのです。そのため一般的な部品は効率的に製造できる一方、高い精度が求められる複雑な部品の製造には苦戦していました。
EPALFER社はこれを千載一遇の機会と捉えました。急速に進化する自動車業界では、複雑な形状や軽量の部品に対する需要が高まっていることを早期段階から認識していました。こうした部品は、従来の技術では製造できないものでした。私たちは他社が手掛けない、あるいは手掛けられない高難易度のプロジェクトに注力することを使命としました。最新技術に投資し、スキルを高め、難しいプロジェクトを請け負う企業としての地位を確立しました。そしてその戦略は功を奏したのです。
図3: 3Dレーザーカットマシン
図4: 順送金型の全体図
躍進と激戦
2005年に自動車業界のTire1サプライヤから初めて請け負った順送金型は、EPALFER社にとって大きな転機となりました。この順送金型によって我が社の技術力をアピールできたのは無論のこと、我が社への信頼を勝ち得ることができたのです。自動車業界は要求が厳しく、大きなリスクも伴います。Tier1サプライヤから仕事を請け負う場合、失敗は許されません。期日内に精度要求を満たす金型を納品したことで、EPALFER社は業界での地位を確立し、その名を知られるようになりました。
とはいえ、想像すらできなかった深刻な課題にも直面しました。中でも大きな打撃となったのは、自動車業界を直撃した景気後退でした。パウロとオフィスに籠り、どのように事業を継続できるかを考え続けたことを覚えています。眠れない夜も続き、厳しい決断も迫られました。プロセスを合理化し、少ないリソースで効率的に成果を上げる方法を模索し続けました。柔軟な対応力ついて様々な学びを得ましたが、長い目で見ると、この経験を経ることで、より強い企業へと変貌を遂げたのだと思います。この試練の時期には、機敏さを保ち、絶えず革新を続け、成功を当然と見なさないことの重要性を学びました。
図5: 順送金型の組立工程
成功への原動力となったシミュレーションソフトウェア
技術への早期投資は、EPALFER社の成長の糧となりました。競合他社に対して強力な武器となる最先端のシミュレーションツール、 AutoForm ソフトウェアへの投資を決定した時のことは今でも鮮明に覚えています。当時、我が社のような零細企業にとってはリスクを覚悟しなければいけない決断でした。巨額な投資でしたが、しかしこれまで不可能だった金型設計の最適化や生産の効率化を実現することができました。その結果、製品の品質向上、開発サイクルの短縮、コストの削減が突如と実現化し、より競争力のある価格設定が可能になりました。
シミュレーションの主なメリットは、お客様とより有意義な議論ができることです。「この材料はある応力条件下でどのように振る舞うのか」や「ブランクホルダ力を最適化できるか」といった技術的な質問をいただいた場合、シミュレーションデータを用いて具体的な回答を提供することができます。このように詳細な情報を提供することで検収のプロセスが改善され、お客様との信頼関係も強化されます。
図6: 現場での金型の搬送
すべてはチームワーク
しかしシミュレーションは成功事例の一端に過ぎません。EPALFER社 の成功の核心は、エンジニアリング部門とトライアウト部門の専門知識にあります。現在EPALFER社の従業員は 95名、その全員が事業に貢献しています。デジタルシミュレーションから現場のトライアウトに移行する際、その工程が円滑に進むよう細心の注意が払われます。すべての金型をあらゆる細部まで試験、調整、微調整することで、最終製品がお客様の期待を上回るものとなるよう徹底管理しています。
EPALFER社は創業以来、継続的な学びと成長の機会を重視してきました。革新と限界への挑戦が奨励される、前向きな職場環境を構築できたことを誇りに思います。この業界は特に大手企業との競争が激しく、優秀な人材の採用と維持は容易ではありません。しかし従業員への投資こそがEPALFER社の成功を牽引する原動力であることを誇りに思います。
図7: 部品の製造と倉庫への搬送
お客様のニーズに応える
EPALFER社が真価を発揮するのは、お客様のニーズを全力で理解する姿勢に尽きます。自動車分野、特にホワイトボディ、シート、バッテリー、サスペンションシステムでは、非常に具体的で厳しい要件に対応しなければなりません。EPALFER社は金型製造だけでなく、シミュレーション、2D/3D レーザー切断、開発、生産に至るまで、お客様のニーズにマッチする総合的な生産ライフサイクルソリューションを提供しています。
顧客中心の姿勢こそがEPALFER社の真骨頂とも言えるでしょう。お客様の成功を全力でサポートし、期待を上回る高品質の金型を提供しているEPALFER社を理解してくださるお客様からは、何度も仕事の依頼をいただきます。我が社は単なるサプライヤではなく、信頼されるパートナーとなることにこだわり、お客様と長期的な関係構築に取り組みます。
図8: U字型部品
リスクを恐れず成功を勝ち取る
何よりEPALFER社 はリスクを恐れません。装置業界から自動車業界への事業転換はリスクを伴うものでした。当時は零細企業であったにもかかわらず、最先端技術に投資したこともリスクでした。プロジェクトのコスト見積もりでは、常に限界に挑戦するリスクを冒していました。しかしこのようなリスクがあってこそ、今日では我が社はより強靭な企業へと成長しました。
振り返ってみると、新たな挑戦を続け、時代の流れを先読みする能力こそが、我が社にとって極めて重要であったことは明らかです。この業界では自己満足は許されません。自動車業界は、新たな材料、新たな技術、新たな要求など、常に変化し続けています。たとえば電気自動車への移行は、特にバッテリーや構造部品の分野で新たな機会を創出しています。EPALFER社はこれまであらゆる難題に挑んできたように、新たな挑戦に対する準備はできています。
私は将来について楽観的に考えています。我が社の目標は、最先端技術への投資を継続し、持続可能な業務形態を採用し、AIや機械学習を活用して、お客様に最高のソリューションを提供し続けることです。EPALFER社は、従業員、最新技術、そして我が社が最も大切にしている品質、信頼性、顧客満足度に投資を続けていきます。