デジタル・ツインのコンセプトをトライアウトと量産に導入:デジタル化担当マネージャの見解 第四部

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このブログ連載は4部構成でお届けします。

参照: 第一部 | 第二部 | 第三部 | 第四部

 デジタル・ツインのコンセプトに関するブログ連載シリーズの最終回へようこそ。これまでプレス部品の初期段階、計画と見積もりの作成、そして金型設計および製造段階にもたらされる変革について取り上げてきました。本稿ではデジタル・ツインのコンセプトが主軸となるトライアウトおよび生産段階について考察を進めます。

 高度なシミュレーションシステムを通じて、プロセスの変革、確率的なシミュレーションの活用、そして生産ラインの徹底管理を実現できます。しかし部門間の連携を図り、また生産現場の状況を正確に反映させるには、きめ細やかな管理が必要です。デジタル・ツインが促進する生産の最適化、品質の向上、そして包括的な生産性の向上について、その可能性を探っていきます。

トライアウトおよび生産:
 一般的には、金型が実際に製作されたら、その後にデジタル・ツインの利用価値が失われると考えられがちです。「実物の金型」を実際の製造現場で利用することができるのであれば、もはやバーチャルに検討することに意義はなくなるからです。

 しかし高度なシミュレーションシステムの進化により、入力パラメータのわずかな変化を変数として定義できるようになり、製造現場の条件より正確に反映させた確率的なシミュレーションを実行できるようになりました。これでプレスや溶接工程の再現モデルに、実際の製造現場では完全に制御することが不可能な要因(板厚や材料特性などの「ノイズ変数」)まで含めて、これらの要因がプロセスに及ぼす影響を評価することができます。このシミュレーションを活用して製造プロセスにおける不具合の根本原因を特定し、その不具合を排除するために工程パラメータをどのように調整するか、バーチャルに検討することが可能になったのです。これにより、生産ラインでコストのかかるトライアンドエラーを繰り返すことなく、不具合を排除することができます。さらには、バーチャル上の工程に最小統計能力を設定することで、「バーチャル検収」を取り入れることもできます。

 上述のことから、プレス成形工程や溶接工程のデジタル・ツインを通じて、製造時の損失を最小限に抑え、工場の生産性を最大限に高めるために必要な情報を活用することが可能になり、つまり生産ラインの徹底管理を実現することができます。図1Aと1Bは、製造上の不具合解消を目的としたデジタル・ツインを応用した例を示しています。

図1A: ノイズ変数の変動から生じる不具合を示したモデル

図1B: 発生した不具合を解消するために工程パラメータ(ブランクホルダ荷重とブランクの位置)を調整した同モデル

 この技術を実際に適用する上で、この場合も金型開発や生産に関わる複数部門の連携が最大の障害となります。デジタル・ツインのシミュレーションモデルは一般的に製造技術部門が担当し、ここに工程やプロジェクトのスペシャリストも配置されています。製造に影響を与える可能性のあるノイズ変数や不具合解消に活用できる工程変数のすべてを含むファイルは、ここで生成することになります。

 しかし生産ラインの稼働状況を正確に再現するシミュレーションを構築するには、ノイズ変数の許容値や工程パラメータの変動範囲について、生産担当から完全かつ信頼性の高い情報を受け取る必要があります。同様に、製造、トライアウト、運用中に金型に何らかの修正が加えられた場合にも、その情報を受け取り、モデルに組み込む必要があります。このような連携が確立してこそ、生産管理ツールとして使用するデジタル・ツインが実際の製造現場を適切に反映していることを担保できるようになります。

 部門間の連携の重要性については、通常、部門長にこのような発想はなく、むしろ各部門は独立して業務を進める傾向があります。またサードパーティのサプライヤーが提供するサービスについても同様です。そのため必要な連携を確立し、確実な運用を担保するのは、上層部の管理職の役割となります。理想的には、プレス部品や組立の生産における金型構築プロセスに、確率論的シミュレーションモデル(いわゆるバーチャル検収)の引き渡しという要件を含めるべきです。それによりデジタル・ツインから得られる最先端のリソースの活用および運用が可能になります。

ブログ連載シリーズのまとめ

 プレス成形やプレス部品のアセンブリにおけるデジタル・ツイン技術の進化は近年著しく、部品や金型の開発中に生じる不具合をほぼすべて網羅できる、非常に正確で多用途なシミュレーションシステムが確立してきています。

 しかしこのようなデジタル・ツインの技術を有効活用する上で、それより以前の数十年間に培われた手順や慣習そのものが障害となりうる可能性は十分にあります。したがって企業の上層部はこの最先端技術がもたらす利便性を理解し、関連各部門およびサプライヤーの連携を促進するとともに、コスト削減、納期短縮、最終製品の品質向上、製造ラインの生産性向上など、デジタル・ツインがもたらすあらゆる利便性を最大限に引き出すための新しい手順を策定することが求められます。

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