シミュレーション・コンサルタントの雇用: 英国EU脱退後のポスト・コロナ時代におけるトレンドとなるか

AutoForming Solutions社の創業者ニック・セフトン氏が語る舞台裏

 Tire1サプライヤーが社外のシミュレーション・サービスを活用するトレンドが高まっています。エンジニアリング・シミュレーションのコンサルタント業界に新たな事業機会がもたらされるか、英国の金型製造に精通したニック・セフトン氏の見解を紹介します。この上昇気流にある市場にてトレンドの波に乗り、新たにシミュレーション・サービスを立ち上げたセフトン氏に、その経緯と動機についてお話していただきました。

 1995年にシートメタルを扱う企業に就職しましたが、実はすぐに、その仕事に向いていないと確信していました。ただもともと木材を扱う仕事を希望していたため、金型を手作業で製作するひな型製作者として4年間過ごしました。その業務を通じて、金型形状を作成するための技術的な図面が読めるようになると、いつしかプロトタイプの金型設計を任されるようになり、CADルームでCATIAの使い方を学ぶまでになりました。このソフトウェアを習熟するまで、それほど時間はかかりませんでした。
しかし2004年になると「プレス成形金型を設計してくれる新しいソフトウェアが発売された」と上司から告げられたのです。当初は「何年もかけて学んだスキルがすべて無駄になる」と感じた同僚もいましたが、このソフトウェアは、これまでの金型製造のノウハウを置き換えるものではなく、むしろその経験値を活かしながらプロトタイプを作成するものだということに、すぐに気付きました。

 初めてこのAutoFormソフトウェアのワークショップに参加したとき、6名の受講者の中で私が最年少でした。金型設計で有限要素解析(FEA)を扱うのは、一時的な流行りでしかないとみな固く信じていました。しかしワークショップの受講後、間もなく私は金型設計をデジタルで扱うようになっていました。短時間でこのソフトウェアを使いこなせるようになり、設計者が作成した設計図が実際には機能しないことを突き止めた場合は、それを相手の気分を害さないように伝える方法も学びました。設定されたパラメータをデジタルに実行すると、実際に生じうる不具合を簡単に特定できるのです。数年間は設計者との間で「一進一退」が続きましたが、当初の抵抗感はいつしか受け入れられ、信頼へと変化しました。

 その当時、私は英国のコベントリーで金型製作者として勤務していました。配属先のCADルームは金型工場の上にあったので、実際に金型でプレス生産を行うオペレータがシミュレーションしたプロセスに違和感を抱いていないかを確認しに行くことで、信頼関係を築いていきました。私はCNCのプログラミングにも携わっていたので、鋳造工程を除くすべての初期の金型開発に関わっていました。

 2008年、業界が破綻の危機に追い込まれ、私を含む熟練の金型製作者たちが解雇されたのです。私たちは収入を得るために、電気技師や建設業の補助的な肉体労働を強いられました。しかしわずか6週間後、私たちは再び雇用されることになりました。この経験から「会社がこの先また従業員を解雇するのであれば、いっそのこと会社から独立して仕事を請負う方がいんじゃないだろうか」と思い立ちました。そうすれば雇用の安定性は変わらぬまま、収入は増加します。これまでTire1サプライヤーに勤務していましたが、辞表を提出し、大手OEM企業との契約を試みました。そして現在の会社に請負業者として採用されることとなったのです。新たな契約で同じ仕事を請け負い、フィージビリティ全般の検討と金型形状の開発を担当しました。

 後に中国のOEM企業と契約を結んだ際にも、常にアンテナを張り巡らせていました。フィージビリティの検討中に形状を変更したり、仕様をアップグレードする際には、パッケージングや電気系など、プロジェクトを構成しているさまざまなチームへの影響を考慮しなければなりませんでした。ホワイトボディで対応すべき不具合だけでなく、他の部門が行った修正についても調整しなければならず、すべて初めての経験ばかりでした。また、量産用の金型を初めて扱ったのもこのときでした。経験豊富なプランナーと一緒にコンセプト工程を作成していたので、些細な修正であっても、金型全体のコストにどれだけ影響するかをすぐに理解することができました。

 近年は英国のEU脱退による余波を受ける一方、新型コロナウイルスが世界のOEMのボトルネックとなっています。これは金型製作者が大量解雇された2008年の再来となるのでしょうか? あるいはチャンスの到来となるのでしょうか?

 英国のEU脱退やコロナ禍への対応策として、私はコンサルティング会社を設立し、市場の変化に備えました。今後は多くの人々が仕事の確保に奔走する一方で、熟練の金型製造者たちはフリー・エージェントへと転身し、会社を立ち上げるのではないかと予想しています。チャンスは目前にあります。契約書や請求書に終われつつ、気難しい顧客や未知の状況にも対応しなければならず、これまで以上に仕事が増えるように思えるかもしれません。しかし適切な対人スキルさえあれば、チャンスの瞬間を捉えて利益に転じることができるのです。

 シミュレーション・ソフトウェアのコストが、金型製造の専門家にとって特殊な市場ギャップを生み出していることが明らかになってきました。これは、シミュレーション・サービスを必要とするサプライヤー、またはプロジェクトを完了するために1年のうち数ヶ月だけシミュレーション・ソフトウェアを必要とするサプライヤーにとって、ライセンスの価格が高額すぎるようになってきていることが原因です。さらに、FEAシミュレーションを専任で扱う担当者を正社員として雇用するコストもあります。従業員がトレーニングを受けてソフトウェアを使いこなせるようになる頃には、私ならすでに仕事を終えているでしょう。このような理由から、このポスト・コロナ時代には、外注のシミュレーション・サービスが活躍する「ブルー・オーシャン」の状態が形成されつつあります。