高強度鋼の見込み補正解析: シミュレーションと金型工場における差異の解消

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本稿では、高強度鋼部品の見込み補正解析について、長年のお客様であるIJS社(ILJI TECH金型工場)の成功事例をご紹介します。IJS社では、幅広い部品の金型製造を行っています。近年、高強度鋼部品の金型製造においては、スプリングバックの見込み補正が課題となっています。実際のところ、高強度鋼部品の見込み補正については、どの企業もスプリングバックの管理に苦慮しているようです。

IJS社では、2016年以降、シミュレーション解析と製造現場の間に生じている差異の解消に努めてきました。金型工場の諸条件をシミュレーションに適用するため、金型設計者はトレーニングを受講しています。また最近では、フィージビリティ・シミュレーションの強化およびシミュレーションを用いた仮想的な反復解析の最適化にも取り組んでいます。IJS社では、高精度なシミュレーション結果を高速に算出するAutoFormを活用することで、フィージビリティ・シミュレーションの強化を実現しました。さらには、シミュレーションに適用する諸条件と金型工場における金型製造の諸条件が一致するよう、細心の注意を払っています。

かつてのIJS社では、次のようなプロセスを適用していました。まず解析段階で成形性を大まかに確認し、ドロー工程のスプリングバックによるトリム金型へのパネルの位置決めなどの影響を考慮せず、成形性の結果のみからスプリングバックを検討します。そしてNCモデリング・エンジニアがCADを使い、手作業で形状の修正やモーフィングを適用し、見込み補正のモデリングを行います。ドローシェル(ドローパネルに合わせて次工程のトリム金型形状をフィットさせる)については、シミュレーションでは考慮せず、現場で1工程目のOP10(ドロー工程)の部品をスキャンして直接適用します。このようなプロセスでは、シミュレーション解析と製造現場に差異が生じるため、高強度鋼の金型製造には大幅な手直しが必要でした。

このプロセスで完全な成形性を達成するには、多大な時間と工数が必要となります。実際のプレス成形工程と同様に、ドローのスプリングバック・シミュレーション結果からドローシェルを適用し、トリム工程を分離してスプリングバックを確認します。そしてAutoFormのソフトウェアで見込み補正を実行しますが、ここではAutoForm-ProcessDesignerforCATIAによるNCデータのモデリングも考慮します。ソフトウェアのツールを活用してプレス成形シミュレーションからCADへ情報を転送することで、必要な形状修正を直接適用できます。しかしこの工程は、通常、エンジニアが形状修正について個別に判断しなければならないため、多くの手間がかかります。また手作業で行うため、多くの場合、結果に矛盾が生じます。そこでこの見込み補正ループをシミュレーション・ソフトウェアの内部だけで完結することで、より迅速に安定性を達成しようと考えました。検討したロバストな見込み補正戦略の最終案をCAD環境へ適用すると、サーフェスを一度にまとめて修正できます。その結果、1180MPa材のルーフ補強材は、わずか3回のプレス・トライアウトで完了することができ、コストの大幅削減に成功しました。IJS社ではAutoFormのスプリングバック見込み補正を通常業務プロセスへ適用後、980MPa材や1180MPa材を含むすべての高強度鋼材で金型のトライアウトを3回以下に抑える目標を設定するほどの自信を獲得しています。

図1: 部品のスキャンによる測定

(左) ADE社のキム・キタエ氏                      (右) IJS社のチャ・ギョンジュン氏

IJS社では、AutoFormに対する理解を深め、より安定した結果を得ること、そして金型生産の関係部署にAutoFormの活用を促進することを、2021年の目標に掲げています。チャ・ギョンジュン社長自身が、AutoFormの多様な機能を通じてプレス加工に適用できる新たな技術の開発に取り組んでいます。

シミュレーション解析と製造現場の差異解消のみならず、IJS社におけるコミュニケーションの活性化、そしてAutoFormの信頼性や利便性の認知度向上に大きく貢献してくださったチャ・ ギョンジュン社長と、AutoForm-Compensatorプロセス導入に尽力いただいた ADE社セールス・マネージャのキム・キタエ氏に感謝いたします。

IJS社は、1986年にILJI TECH金型工場として創業し、2014年には慶山市で金型工場として独立しました。現在、同社は100名を超える従業員を擁しています。IJS社の国内の主要顧客は、冷間金型および熱間プレス成形金型を供給しているヒュンダイ、起亜自動車、現代製鉄などがあり、海外の顧客には、金属薄板を供給しているBAIC Motor社、株式会社キーレックス、GAZグループおよびABTOBA3社などがあります。