はじめに
近年、デジタル変革の流れの中で「デジタル・ツイン」という言葉を耳にすることが多くなりました。「デジタル・ツイン」とは、主に製造業界において、仮想世界から現実世界への連携を可能にする概念です。プレス成形業界においても、市場投入までの時間とコストを削減して可能な限り最高の品質を達成することに重点を置くようになり、フルデジタルツインの理想は、そのような目標を可能にする1つの方法だと思われます。オートフォームはその必要性を常に考えて、製品設計、生産計画、プロセス・エンジニアリング、そして、金型・設備の製造、製品量産まで、仮想世界からシミュレーションの意図に沿った設計を、生産可能な現実世界への実現をサポートしています。
AutoForm-ProcessDesignerForCATIAはCATIAに完全統合したアドオンのモジュールで、フルデジタルツインを実現するために、重要な役割を果たしています。図1のように金型設計に必要なタスクである絞り工程のダイフェース作成や、2次加工の抜き刃または曲げ刃の定義や作成、そして、スプリングバック見込み補正およびNC加工に必要な準備、たとえば逃がし、フィレットのクリアランス、実ビードの作成などを支援し、金型設計のワークフローにおいて、上流から下流まで各関連部署のタスクを全面的に対応しております。
図1.上流から下流まで部署を跨るタスクを全面的に対応するソリューション
本稿では、NC準備の領域におけるR9版にて新しく開発されたユニークな「抜き刃基面作成」機能に注目し、ご紹介します。
抜き刃基面作成機能の開発背景
プレス金型設計の世界では、精度と品質を向上させながら、ダイエンジニアリングやCAE部門で実現可能なコンセプトをより低コスト、かつ高速にNC加工に必要なすべてのサーフェスとカーブを含むCADベースのプロセスに変換するという課題があります。金型構造設計部署においても、同じような課題に直面しています。特に、抜き刃の作成において、図2のように、現在の技術では、スクラップの落下と金型に付着を予測することが困難であり、抜き刃のエントリーや接触など工具動作の成立性を検討する際、経験値に基づいて、厳しい時間制約のある中に、NC部署との頻繁なやり取りを繰り返して、試行錯誤されているお客様が多いと思われます。
図2.スクラップの落下&付着が予測困難
AutoForm-ProcessDesignerForCATIAは、デジタル・ツインの概念に基づいて、各関係部署間の連携をより円滑に、お客様が苦労されている業務に有効なソリューションを提供しています。特に、抜き工程において、非常に工数のかかる抜き刃基面の角度作成作業及び、シャー角と食い込み量の定義を同時に柔軟かつ簡単に作成できるような着想に基づいた、これまでにないユニークな「抜き刃基面作成」機能を開発しました。
抜き刃基面作成の概要
抜き刃の作成の考え方はお客様によって若干異なりますが、一般的に、パネルの状況やトリム角度を評価しながら、パネル面から少し逃がす角度を付け、食い込みを含めた基面サーフェスを作成します。作成後、逃がし面を作成し、抜き刃の基面とともに、鋳物のソリッド構造に織り込まれ、最終形となります。AutoForm-ProcessDesignerForCATIAの新機能は図3のように、その基面作成に役に立ちます。基面作成後、既存の面作成機能群、たとえば余肉エディタなどを利用し逃がし面を迅速に作成できます。基面について、刃面、底面、上面等さまざまな呼び方がありますが、本稿では基面として説明します。
図3.抜き刃の基面作成
基面作成の考え方
抜き刃の基面作成において、2つ重要なパラメータがございます。1つ目は、断面で示したように、トリムする際、パネルを変形させず、切りやすいようにトリム刃の底面に角度をつけます。また、鈍角にならないように角度を付ける場合もあります。2つ目は、抜き加工力の軽減・減音策として、シャー角を付ける場合があります。いわゆる異なる食い込み量の定義です。(図4)
図4.基面作成の考え方
本機能では、平面に対する一定の角度でサーフェスを新規作成するのではなく、事前に用意したサーフェス、たとえばパネルの一部を抽出したサーフェスに対して、柔軟に逃がす角度をつける面変形機能になりますので、図5に示すように、複雑なパネル形状の干渉も対応可能です。
図5.現状よくある課題の解決策
操作方法は直感的で簡単です。変形したいサーフェスを事前に準備し、抜き線、そして抜き方向を定義した後、逃がしたい角度と食い込みの高さを定義することで、迅速にサーフェスを変形できます。制御点を追加することで徐変制御が出来ます。各制御点において、角度や高さを同時に定義することができるので、お客様のニーズに柔軟な対応が可能です。
底面作成後に、さまざまな分析機能で作成結果を直感的に評価することができます。たとえば、「トリムサーフェス分析」のアニメーションでトリム刃の接触状況を3次元上で確認ができ、また、「トリムカーブ分析」のアニメーションを用いて異なるタイミングのトリム状況を視覚的に確認できます。従来のような平行移動しながら抜き刃の接触状況を確認する作業は不要となります。
顧客事例
実際にお客様のBSO(サイドパネル)における抜き刃作成のベンチマークを実施しました。その結果、42個の鋼材にかかる作成工数は、通常工数の21時間に対して、本機能を利用することで7時間までに下がり、全体の1/3になり、大幅な工数削減効果(67%)を実証できました。
図6.BSOにおけるベンチマークの結果
まとめ
プレス成形領域における仮想世界と現実世界との連携の重要性が高まり、1つの統合システムの中において切削可能な面品質を確保しつつ、大幅な工数削減が求められています。AutoForm-ProcessDesignerForCATIAは、デジタル・ツインの概念に基づいて、エンジニアリングプロセスに付加価値を与える、新しい独自の機能を開発してまいりました。「抜き刃基面作成機能」の開発によって、金型構造設計部署とNC準備部署間の円滑なコミュニケーションを促進し、シームレスなワークフローを実現でき、多くのお客様が苦労されている抜き刃作成分野にも大幅な工数削減効果が期待できます。
また、本稿では、抜き刃の作成に注目していますが、その他にも数多くプレス成形金型設計に特化したユニークな機能群を開発しています。AutoForm-ProcessDesignerForCATIAは単なるCADソフトウェアプログラムではなく、オートフォームのCAEシミュレーション・ソリューションと緊密に連携し、一貫かつ透明性のあるデータ交換により、複数のシステムを跨ぐ作業フローに比べ大幅な工数低減が可能になり、シームレスフローを実現できます。 AutoForm-ProcessDesignerForCATIAを用いて、50%以上の工数削減を達成できる事例が豊富にあります。オートフォームは今後も、より日本のお客様のニーズに応え、現場の方々の声を反映したソリューション開発を続け、プレス成形におけるデジタル・ツインの実現を支援します。