精度に固執しすぎると、本質を見失い、コストばかり膨れ上がることになりかねません。
日常生活の中でも製品やサービスの正確さや精度が気になることがあるかと思います。精度を求めることは重要ですが、しかし精度にこだわりすぎることもまた危険です。設計工程の初期段階から「精度」を追求しすぎると、その工数が無駄なコストに転じかねません。プロジェクトの開始時や見積もりの手法を検討する段階では、多くの場合、正確さを求めるまでの時間の余裕はありません。これは小数点以下第4位まで測定したり、精密な仕様書を作成したり、制限のある寸法精度を厳守しなければならないエンジニアには受け入れがたいことかもしれません。しかし精度を極めるには、現実的でなければなりません。要件を正確に満たすことは、たとえばパズルの1片をはめることにしかすぎません。達成すべき最終目標は製品やサービスの精度ではなく、その販売を成功させることなのです。
なによりも重要なのは、早期段階において適時的確な技術的判断がくだせることです。そうすれば設計工程には高い生産性と精度の結果が伴ってきます。
本稿では金型形状の作成を例にご説明します。これはシミュレーションで使う金型サーフェスを定義する際に必要となるサーフェスやカーブなどを含みます。ここで触れる「精度」には複数の意味があります。まず最も重要なのが、サーフェスとトポロジが正しい位置と姿勢であることです。次に、サーフェス間の接続がしきい値に収まるように調整しなければなりません。しかし開発のこの段階では、サーフェス接続の精度は重視すべきことではないため後述します。
図1: 新規部品デザインの成形性
ある部品の生産工程を設計する新規プロジェクトを例にご説明します。過去にも同様のプロジェクトがあったものの、いくつか相違する点があり、そこから生産時に不具合が生じる可能性があることは明らかでした。最終目標は高品質な部品を生産することです。しかし不具合が懸念され、また安定した生産も担保できない中では、設計に多大な工数をかける前に、まずは不具合対策を検討する必要があります。ここでは「精度」を重視することなく、さまざまな工程や金型形状を素早く検討することで、正しく解析を実行できるようにしなければなりません。
後期段階で大幅な変更が生じることがないよう、早期からロバスト性を評価する必要があります。そのため一般的なCADソフトウェアではなく、初期シミュレーション結果を設計の判断材料として役立てます。たとえば、図1で示すように部品が大きく変わったことで、1回の絞りから生じる大きなわれは、工程間の微調整では不具合を解決できないことがわかります。特定の領域で予想されるわれは、生産時に同様のモデルから生じている不具合の範囲と一致しています。
当初の案では材料をより均等に延伸させるために予絞りの設計および設定を行い、2次成形で最終形状に成形する予定でした。しかしスプリングバックの改善、しわ、ブランクの利用率を評価していないので、この時点ではどの程度まで材料を延伸するかは推測するしかありません。ただしこれを検証するのみの目的において、機械加工ができる品質のサーフェスを作成し、何時間もかけてCADで複数のデザインを作成して比較する必要はありません。必要なのは、この工程変更の概念実証(POC)のみです。精度はそれが必要とされる場合には重視すべきですが、この状況で考慮すべきは精度ではなく、目の前にあるサーフェスを修正することです。
ではその手段を探ってゆきましょう。
図2: 調査のための柔軟な構造を設定する手順
この工程の説明を図2に示します。サーフェス上でモーフィング機能を使用し、数本のカーブ(①と②)で調整すると、初回ドローの概念に応じた結果を迅速に作成できます。これでCADを使用したサーフェス作成前にその効果を検証できます。図2の③では修正に対して範囲を指定すると、複数のシミュレーション結果が自動計算され、ソリューションをさらに最適化することができます。
図 3: 成形性 – われの解消
図3を見ると、この手段は有効ではあるものの、まだ目標条件には達していません。不具合を改善しただけです。しわ、スプリングバック、ブランクの利用率など、他の基準も評価する必要があります。
この時点では、他の品質基準を評価しながら形状の自動最適化が行われるソフトウェアツールを活用するのが最善でしょう。体系的な工程改善の手段については、JapanForming.comにロバスト性や工程最適化に関する記事が多数投稿されています。
業務目標を達成する上で、「精度」や「品質」が必ずしも重視すべきものであるとは限らないことを忘れてはなりません。その目的やレベルに応じてツールを効果的にお使いください。
この事例はシンプルすぎると思いますか?工程設計者としての業務が過小評価されたとお感じですか?プレス成形は多岐にわたる物理学や工学の分野が関与する複雑なシステムです。オートフォーム社はすべての分野を知り尽くした達人ではないかもしれませんが、しかし経験を活かし、ツールを有効活用することで、業務を成し遂げる手段については熟知しています。この事例は開発工程に新しい手法やソフトウェアツールを導入することで潜在的な価値を引き出すことができることを示す一例にすぎません。
このトピックについて皆さんのご意見をお聞かせください。AutoForm-ServiceCenterでは、たとえばモーフィング機能について、ご紹介した手法の適用例について段階を追った形態でご覧いただけます。また、技術サポートやセールスに関するお問い合わせについては、オートフォーム社日本オフィスまでお気軽にお問い合わせください。