Rubbish in Rubbish out(ゴミを入れてもゴミしか出てこない): タタ・スチール社ジョージナ・トレハーン氏が語る「データのジレンマ」の解決法

 「Rubbish in Rubbish out(ゴミを入れてもゴミしか出てこない)」は、1970年代に初めてコンピュータが大学へ導入された頃に生まれた慣用句で、粗悪なデータを入力しても粗悪な結果しか得られないことを意味します。今日のプレス成形シミュレーションや衝突シミュレーションも例外でなく、高精度な結果を得るためには、高品質な材料データを入力すべきであることが示唆されています。

 現代は常に時間に追われる生活を余儀なくされています。時間はいくらあっても足りません。たとえば自動車のEV化やサステナビリティ(持続可能性)の取り組みに至っては、変化を助長させるアクセルを誰かが踏み込んでいるとしか思えません。しかしこの急激な変化の裏では、それに見合ったツールが重要な役割を果たしていることをご存じでしょうか。高精度なシミュレーションはそのひとつです。たとえば、シミュレーションを実行することで、複数の選択肢を素早く評価し、不適切なものを切り捨て、必要な部分のみをデザインに取り入れることが可能になります。またTTO(金型トライアウト)や車両試験においても、高精度なシミュレーションを活用して「一発合格」を実現することで、コストや時間を要するトライ&エラーの繰り返しを回避できます。その上で、材料データが正確かつ高品質であることは、シミュレーションの精度を向上させるための重要な要素のひとつとなります。

この高品質なデータはどこで入手できるのでしょうか?

 もちろん自分で作成することもできますが、それには膨大な工数がかかります。完全な材料データ・シートの作成には1か月の時間と約5万ユーロ(約7百万円)のコスト、シミュレーションに適用できる材料カードまで作成するには、さらに2週間と1万5千ユーロ(約2百万円)がかかるといわれてます。タタ・スチール社では高品質な材料データの重要性をいち早く認識し、Aurora®オンライン・データベースの開発を行いました。このデータ・ベースにはプレス成形の材料等級からAHSSまで、当社が提供する自動車向け製品のデータが包括的に収録されています。これらはPDF形式のパンフレット、Excelデータ・シート(お客様がご自身で処理する場合に活用できる元データ付き)、そしてAutoFormやLSDynaといった代表的なソフトウェア・パッケージですぐに利用できる材料カードの形式で提供されています。Aurora オンラインでは、プレス成形、衝突、疲労などさまざまなデータをご利用いただけます。

Aurora オンラインには、基本、塑性、接合、性能などのデータが収録されています。

データの品質はどうでしょうか?

 そもそも品質とは何を意味するのでしょうか。タタ・スチール社では、ここでの「品質」を、お客様に供給する材料の代表的なものと解釈しています。そして実際の生産データを確率論的に解析し、コイルの等級ごとに平均的な特性を特定する手法を開発しました。このコイルのデータを使用して、シミュレーションですぐに利用できる材料カードとデータ・シートの大部分を作成したのです。

Auora オンラインでは代表的なソフトウェア・パッケージで利用できる材料カードをすぐにダウンロードできます。

 タタ・スチール社が「品質」という言葉に込めたもう一つの定義は、すぐに利用できる幅広いデータです。Aurora オンラインでは当社製品の大部分に関するデータを入手できるだけでなく、ゲージまで選択できます。たとえばDP800GIでは、1つのデータ・セットだけでなく、お客様が関心のあるゲージに応じて3つのデータ・セットを提供しています。別の選択肢は、いわゆる「ワースト・ケース特性」と称されるもので、ある種の性能に対して最も好ましくない材料特性を意味します。たとえばプレス成形の場合、A80、n、rの値が最も低い特性がこれにあたります。前述のとおりタタ・スチール社が開発した「平均的な」コイルを選択する手法を活用すれば、必要に応じて「最悪の」コイルを選択することもできるのです。これは通常の範囲内で、ある等級から提供される材料の中でも成形性が最も低いものを表し、これによって、お客様のシミュレーションにロバスト性の幅を持たせることができます。

時間短縮のテクニック

 Aurora オンラインのデータをご活用いただくことで、お客様が負担する材料試験コストの大幅削減が実現すれば幸いです。タタ・スチール社では材料試験に多大な時間を費やすことなく、このように膨大な量に及ぶデータの作成に成功しました。これを不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これは(当社の優秀な人材が集結し開発した)さまざまな技術に支えられています。この技術によって、単純な引張試験片(ひずみ速度を若干修正したもの)から、FLC(成形限界曲線)、降伏曲線、高ひずみ速度のデータを作成することができるようになったのです。この技術が開発されていなければ、このように広域なデータを作成することは不可能だったでしょう。本稿では割愛しますが、この技術について多くの論文が公開されていますので、ぜひAbspoel、Scholting、Vegterといった名前から検索してみてください。あるいはタタ・スチール社にご連絡いただければ、喜んでご説明いたします。

Aurora オンラインのデータを用いたドア・インナーのFEMシミュレーション結果は、ひずみの測定値とほぼ一致し、シミュレーションが高精度であることが実証されました。

自社開発した材料カードを有する場合でもAurora オンラインは必要でしょうか?

 通常OEMには自社開発したデータ・セットがあり、たとえばフィージビリティのシミュレーションなどではこれを活用しています。初期段階ではどの材料メーカーから材料を仕入れるか決まっていないことが多いため、社内にデータ・セットを有することは理にかなっています。ではAurora オンラインはどのような場合に必要なのでしょうか?3つのケースが想定されます。

  1. 新製品 – どこかで始めなければなりません。
  2. 検証 – 自社開発した材料カードが実際に使用する材料から逸脱していないかを確認する必要があります。Aurora オンラインにアクセスすれば、すぐに情報を得ることができ、電話をかけるといった手間もかかりません。
  3. 調査 – シミュレーションの結果が予想に反する場合、Aurora オンラインのデッキで簡単に実験ができます。タタ・スチール社の材料カードで同じシミュレーションを行い、同じ結果が出るかを確認できます。また降伏曲線が異なる材料カード(VegterとHill48)や、ひずみ速度を含めた材料カードなどでシミュレーションを行うことで、さまざまな条件を確認できるため、新たな視点で問題を捉えることができるかもしれません。タタ・スチール社では、主要なソフトウェア・パッケージの材料カードを用意しているだけでなく、基本的な材料モデルとより高度な材料モデルの両方を含む複数のバージョンを用意しているので、このようなことが可能です。

 どの材料が最良の結果をもたらすか、すべての関係者が同意しているわけではありませんし、疑問や質問を抱えたお客様がいらっしゃるかもしれません。タタ・スチール社が提供するデータを快適にご活用いただくためにも、Auroraオンラインのリンクから当社担当者まで直接お問い合わせください。あるいはAurora オンラインから元データを含むデータ・シートをダウンロードできます。データの透明性が確保できるとともに、お客様がご納得される方法でデータ処理することも可能です。

タタ・スチール社では、様々な材料やデザインなどのシミュレーションを通じ、お客様のプレス成形のパフォーマンス向上をサポートします。

 タタ・スチール社のAuroraオンラインは自社の優秀な人材が集結して開発したデータ・ベースで、社内で管理されているだけでなく、積極的な利用も広がっています。このデータ・ベースが稼動して10年になりますが、広域および広範なデータとその品質について大変ご好評をいただいています。さらに今後もお客様のニーズに見合うデータ・ベースとして構築を続けてゆく上で、ぜひお客様のご意見をお聞かせください。シミュレーションの精度をさらに高めるには、どうしたらよいでしょうか?業務に必要なデータを取得できていない部署はどこですか?お客様の課題について、一緒に取り組んでいきましょう。

Aurora オンラインについて、詳しくはこちらをご確認ください。