インサイド・ストーリー: OEMとサプライヤーの関係性に変革をもたらすデジタル・ツール

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バリュー・エンジニアリング・ソフトウェアがサプライ・チェーンのコスト効率化を促進

 あるOEMが迅速なバリュー・エンジニアリング・システムを導入したことで、コストの予測精度が向上し、自動車プロジェクトの初期段階から的確な判断が下せるようになった事例をご紹介します。いまではバリュー・エンジニアリングのソフトウェア・システムが算出する正確なデータをもとに、プロジェクトの継続あるいは中止を決定しています。さらに、OEMはサプライヤーと入札交渉を行いますが、ここでもコスト・データベースを利用した明瞭で信頼性の高い工法計画が交渉のベースとなります。本稿ではオートフォーム社のファブリシオ・ティンティが「AutoFormソフトウェアの導入前後」を比較します。

 明瞭なコスト分析と整合性の高いオーバータイム分析を維持し、内部コストと利益を均衡させるには、自動化されたソフトウェア・システムを活用しなければ実現できません。視野の広い交渉や議論が促進されることで、問題が大きくなる前に回避することが可能になります。非効率な作業やデータ損失を削減することが、長期的な事業成功の鍵となり、またOEMとサプライヤーの関係性も向上します。

従来のコスト分析手法の問題点(「AutoFormソフトウェア導入前」)

 コスト分析を手作業で行う場合、通常はExcelなどの表計算シートを使用しますが、計算の明瞭性や整合性は担保されません。多くの場合、OEMによる工法計画の策定やサプライヤーの入札活動において、3D部品形状が活用されることはなく、また2D工法計画の情報概略にも解釈の余地や不確定要素が多く残ります。

 一般論として、コスト効率は総額の一律削減という形で促され、具体的な削減対象の特定はサプライヤーに任されます。しかし各工程や生産品目のコスト内訳を把握することはほぼ不可能であり、代わりに、部品開発、製造コスト、材料使用率といったマクロな数値のみを元に検討が行われます。

 サプライヤーがExcelなどの表計算シートで作成したコスト見積もりをOEMへ提出すると、最終価格を決定するための入札交渉が始まります。サプライヤーが提示する最終価格がOEM購買部門によって社内で定めたコスト目標値を下回れば、そのサプライヤーは製造Tire1の候補リストに追加され、交渉は次段階へと進みます。

 

図1:自社独自の表計算シート/コスト見積もり方法に基づく入札交渉

 この段階においてOEMは最終候補のサプライヤー数社と面接を行い(技術審査には、コスト・エンジニアリング部門、購買部門、プレス技術部門が参加する場合もあります)、一定の品質で所定の期日までに納品が可能であるかを見極めます。

 この個別審査は、OEMがサプライヤーを決定し、発注をかけた時点で完了となります。

 その後の製造工程において、サプライヤーが入札段階で予測できなかった問題に直面すると、その問題に対処すべくOEMと新たに交渉を始めます。問題を解消し、納期を順守するには、たとえば部品の形状変更、工程の追加、金型の設計変更といった追加作業が必要となります。サプライヤーはOEMへ予算増額を提案しますが、追加コストの負担をどのように対処するか、交渉が長引くほど、サプライヤーとOEMの双方にさらに余分なコストが生じるのです。

 OEMではプレス技術部門やコスト・エンジニアリング部門へシミュレーションやコスト分析を依頼し、成形性の問題を調査することになり、またサプライヤーは合意した予算や納期を順守できなくなります。初期段階のコスト見積もり作成時に特定できなかった隠れコストは、最終段階のコストに大きく影響し、またターゲットの軌道修正も必要となります。これはOEMにとっても複数年にまたがる大打撃となりかねません。両社ともが表計算シートと経験のみを頼りに判断を下さなくてはならない場合、どちらも圧倒的優位に立つための根拠がないため、最終決定をまとめることが難しくなります。交渉は難航し、今後の関係に支障をきたすことになるかもしれません。

 その結果「ubi maior, minor cessat(弱者は強者に屈する)」という駆け引きの法則のとおり、サプライヤーは合意した価格での納品を余儀なくされる場合が少なからずあります。すると次の交渉機会において、そのサプライヤーは、コストを多めに見積もることで、前回の損失を回復しようとするのです。しかし別の機会では、サプライヤーが提示価格を収益限界以下まで下げて、固定費のみを回収することで、OEMの希望価格を優先させる場合もあります。なぜなら仕事の効率が高いサプライヤーとしての地位を確立できれば、今後の新たな入札にまた参加できるようになるからです。またOEMが製造拠点を人件費が安価な海外へ移管する可能性も否定できません。しかし価格交渉に関する予測が立てられないと、コストやキャッシュ・フローに変動が生じるため、安定した事業計画を立てることができません。

 目標価格(コスト分析の最終数値)だけを中心に交渉を進めると、それが政治的な駆け引きなのか、あるいは純粋に技術的な製造コストに基づくのかをOEMが判断することは極めて難しくなります。フィージビリティの分析、金型設計、製造を予測できる専門家を集めるだけでは、たとえキャリーオーバー部品であっても、そのコストは管理できません。また、たとえ同じ製品をサイズ違いで生産していたとしても、次回に予測不能なコストが発生しないとは限らないからです。技術的な生産コストの分析が、OEMとサプライヤーの財務的および政治的な駆け引きとなってしまうのです。駆け引きの進め方次第によっては、サプライヤーの事業体としての存続や消滅に直結する場合すらありうるのです。

交渉から工法計画とコスト見積もりの新時代へ(「AutoFormソフトウェア導入後」)

 コスト・エンジニアリング部門がコスト計算を管理し、大幅なコスト削減を実現したオートフォーム社のお客様の成功事例をご紹介します。あるOEMではオートフォーム社のコスト分析ソリューションを導入し、明瞭で整合性が高い手法でコスト見積もりと工法計画の分析ができるようになりました。コストの内訳を定義できるだけでなく、3D工法計画とフィージビリティのシミュレーションが連携され、コスト管理における大きな一歩となっています。

 AutoForm-CostEstimatorではボトムアップの計算方式を使用しているため、最初から複雑な3D部品を完全に解析し、適切な工法計画を作成することが可能になります。また部品形状の寸法やプレスラインの選択に直結する金型設計から、金型のコスト要因をすべて検討することもできます。このようにコスト見積もり分析の信頼性が高まるため、サプライヤーが作成する見積もりに対しても、AutoForm-CostEstimatorを導入したOEMの発言力がより高まるのです。

 コストの各項目はそれぞれが分析可能であり、また金型設計や工法計画の各作業も最終コストに直接的な影響がありますが、しかしExcelなどの表計算シートを使用して限られたカテゴリやマクロの計算から部品を見積もると、このような詳細まで検討することができません。このように経験をベースに構築したマクロ計算で作成した見積もりに対して、ソフトウェア・ソリューションを活用した不変で信頼できる見積もりは、交渉の場でも受け入れられやすく、承認されやすいのです。

図2: AutoFormによって集約された分析および計算に基づく入札交渉

 AutoFormソリューションの導入によって交渉段階が大変革を遂げ、各セッションにかかる時間が劇的に短縮されました。たとえば、サプライヤーの入札段階からOEMは根拠に裏付けされた判断を下し、コスト最適化を実行することが可能になります。さらには、さまざまなコスト計算/金型作成の基準を定義し、時間当たりのレートを現場の状態に応じて調整することで、意思決定に欠かせない要因を効率よく割当てることができます。

 社内見積もり作成とサプライヤーの入札時に比較検討を行うAutoFormソリューションの導入後、コスト・エンジニアリング部門では、これをサプライ・チェーン全体へ拡張および標準化することが可能であるかを検証するプロジェクトを立ち上げました。その目的はコスト報告書のやりとりに関する独自の認証システムを確立し、明瞭なコスト分析を可能にすることでした。

 市場成長とサプライ・チェーンを維持および発展させる上で、この明瞭性こそが鍵となります。新たなコスト見積もりシステムがサプライヤーに浸透するにつれ、OEMはサプライ・チェーンに沿って入札交渉を進めてゆく新たな可能性について模索し始めました。

 サプライヤーへ過去に支払った最終価格を確認し、そこに調整を加えることで、OEMは各サプライヤーの収益目標を特定できるようになりました。オートフォーム社のソフトウェアを活用し、部品製造にかかる技術的なコストを正確に算出後、サプライヤの純収益として一定の割合を追加することが可能になったのです。無論、その割合についてOEMとサプライヤーが事前に合意する必要がありますが、コミッションの分配後に、サプライヤーから隠れコストについて報告が上がることはもはやありません。工法計画、金型設計、材料利用を考慮に入れた、技術的に信頼できる明瞭性の高いコスト見積りをベースとしているためです。

 製造段階において、サプライヤーから想定外の隠れコストが挙がることはなくなりました。OEMは、部品製造において何がどれだけ必要かを事前に把握することができ、サプライヤーの安定した長期収益を担保することで、サプライ・チェーンのコストを予測することができます。またこれを維持するために、サプライヤーは自社組織の客観的な検討を進め、手順やワークフロー、事業運営をスリム化することが求められます。製造工程が非効率であると、その固定比率の価値が下がり、事業の収益性が悪化するからです。

総論:明瞭性、信頼性、信用性

 入札段階を標準化するソフトウェア・ソリューションの導入は、オートフォーム社のお客様であるOEMに新しい時代の到来を告げるものでした。OEMおよびサプライヤーの双方にコスト削減をもたらすだけでなく、両社の関係における明瞭性と信頼性、そして信用性が高まったのです。標準化のツールを構築することで、工法計画、金型のコスト見積もり、部品のフィージビリティ分析、材料利用の比較が可能になりました。これにより、入札交渉を効果的に進めることができ、究極的には生産プロセスの成功を導くのです。