プレス成形シミュレーション作業における「三種の神器」(ここではシミュレーション・コードは含みません)といえば、「金型モデル」、「工程パラメータ」と「材料定義」があげられます。
これらの良好なデータがない限り、最終的に生産される「プレス成型品」に近い結果を、シミュレーションで算出できる保証はありません。さらに、CADで作成されたサーフェス・モデルがない場合、シミュレーションによる検討が行われないことがよくありますが、それと同様に、材料カードの重要性も軽視され、限りある時間や労力を費やす価値がないと判断される場合も多く見受けられます。
シミュレーションの結果が望ましい結果でなかった場合、その原因が、シミュレーション・コードにはなくとも、多くの場合は、シミュレーション・コードに原因があると非難されてしまいます。この現代社会ではつい忘れがちですが、コンピュータやそれが実行するプログラムは、GIGO (Garbage In, Garbage Out)「ゴミからはゴミしかでてこない」、要するに、不完全なデータを入力すれば不完全な答えしか得られませんが、しかし人間は暗黙のうちにそれらを信頼してしまう最たる例なのです。
しかしなぜこのように原因を見過ごすのでしょうか? 良い材料(カード)と悪い材料(カード)をそれぞれ使用した結果を比較すると、その差異は一目瞭然です。実際のプレス機にて、良い材料と悪い材料をそれぞれ使用した場合と、全く変わりありません。工程のロバスト性が低くなると、プロセス・ウィンドウが小さくなり、機械特性の変動に対する感度がより高まります。
実際のところ、AutoFormを起動し、バーチャルなプレス機を前にすると…。
25年にわたるFTI、AutoForm、PAM-Stamp、Optrisシミュレーションの経験を有する元ユーザーとして、『お使いのコードは@%#!€、シミュレーション結果はプレス成形品と似ても似つきません!!!』といった趣旨の警告を受け取った場合、最初に確認するのは材料カードで、次に確認するのが、摩擦タイプや使用されている値です。多くの場合は、この時点までに原因を特定することができ、また証拠も提示でき、一件落着となります。しかしここで、しばし立ち戻ってみましょう。
90年代半ばに開発されたソフトウェアは進化を続け、また材料特性のサポートや材料カードの生成も同様に進められました。材料の基本を説明するテキスト・ファイルを手書きで作成した日々はすでに遠い過去の記憶となり、今や最先端の理論や数式を駆使して自動作成された材料カードが主流となっています。
この進化を支えた一端には、共通の材料試験データや処理の改善に対する継続的なサポートが挙げられます。簡易単軸引張試験から得た測定の生データ(最大x1000対のデータ)と 直ぐに使用できる硬化曲線をソフトウェアへ入力することで、近似アルゴリズムから、Swift / Hockett-Sherby硬化曲線に必要なパラメータを作成できます。より詳細な設定が必要であれば、ひずみ速度の依存性や移動硬化は係数を使用することで簡単に追加設定ができます。
多くの分野で硬化曲線の重要性は認識されていますが、降伏曲面については未だ認知が進んでいません。不適切な降伏曲面モデルか、あるいは(概ねデータ不足のために)単に等方性材料を選択することが、頻繁に見受けられます。しかし降伏曲面は弾性/塑性変形の境界を示すだけでなく、どこで、どのように、材料が最終的に不具合を発生させるかを示します。これらの点に留意して、次はスプリングバックの予測が実際と大きく異なるか、または予期せぬ場所で部品が割れるなど確認します。
FLCはGoodwinおよびKeelerにより「発見」されてから、長年に渡りよく使用されてきました。サークル・グリッド解析を通じてプレス工場で直接使用できるため、最も頻繁に使用されましたが、しかし材料カードの中でも、最も理解が進んでいない部分でもあります。カーブそのものは、シミュレーションに直接の影響を及ぼしませんが、モデルの応力やひずみを変化させないため、実際のところ、このカーブを設定しなくとも、シミュレーションの実行はできます。このカーブの存在理由は成形性の測定のみを目的とし、エンジニアリングに関する意思決定を行う上で、成形性プロットの基礎基盤を成します。しかしながら、これが非線形のひずみ経路には有効でないことを、ご存じでしょうか。曲げはどうでしょう。またエッジ・クラックはどうでしょう。数百万ユーロ規模の金型製作プロジェクトを契約する前に、ユーザーとして、モデルのひずみ経路を最後に確認したのはいつでしょうか。
オートフォーム社では、意味を成さない文字や数字が羅列したプログラム・コードでしかない材料カードの認識を転換しようと、積極的な取り組みを進めています。AutoFormには、実際の材料挙動を模倣する上で、最高レベルのデータ処理を行うツールがありますが、これには最低限の試験能力が必要です。広範囲にわたる材料データを、材料メーカーから直接提供してもらい、ユーザーが利用できるように公開しています。当社の一般材料ライブラリには、MMK、Novelis、SSABの材料カードが最近追加され、材料メーカーから直接提供のあった300以上の材料カードが揃っています。この材料サプライヤ別のライブラリでは、欧州の大手材料メーカーのアルミ、鋼鉄、ステンレス鋼など、様々な材料カードをご利用いただけます。
しかしこれに満足しているわけではありません。近い将来には、アジア圏および米国の材料メーカーの材料カードを追加できる見込みです。またプレス成形に特化した材料や材料の理論に関するトレーニングも開催する予定です。
今後のシミュレーションでその結果がプレス成形品と一致しない場合、シミュレーション・コードやユーザーを責める前に「三種の神器」を確認していただくことをお勧めします。
注: オートフォーム社では、一般ライブラリおよび材料メーカーから提供を受けた300以上の材料カードを公開し、ユーザーが行う重要な選択を支援しています。さらには、AutoFormではAperam,ArcelorMittal, Bilstein,Erdemir,MMK,Novelis,Outokumpu,Severstal,SSAB,Tata Steelといった大手材料サプライヤと提携した材料サプライヤ別の材料データベースも提供しています。MMK,Novelis,SSABの材料カードは、最近更新されました。
OEMライブラリはオートフォーム社のウェブサイトからご利用いただけます。
著者略歴: アンドリュー・ウォーカー
ウォーカーは2016年にオートフォーム社へ入社、英国北部の材料およびカスタマー・サポート担当エンジニアのテクニカル・プロダクト・マネージャとして活躍しています。ヨーク大学にて論理物理学を専攻し、卒業後はコベントリを拠点とする大手自動車関連企業に就職しました。大学院過程を履修後、FTIおよびAutoForm、後にはPAM-Stampを使用したプレス成形解析を担当し、後にAlcan(現Novelis)へ転職しました。サポート・チームの一員として、ジャガー社のエンジニアと共にX350のプログラムに参加し、AutoFormおよびOptrisのコードを使い、コンセプトから生産まで担当しました。2011年、英国の事務所閉鎖に伴いスイスへ移住、5年間の解析および材料のサポート業務に従事し、英国に帰国しました。その後、現在の役職であるテクニカル・プロダクト・マネージャとして活躍しています。