デジタル・プロセス・ツイン: 自動車OEMのビジネス・モデルとROI(投資利益率)

プレス成形とホワイトボディ・アセンブリのデジタル・プロセス・ツイン(パート3)

デジタルの時代が到来します。この時代を乗り切るためにも、デジタル・トランスフォーメーションの導入をぜひご検討ください。この自動車業界のデジタル化に関する本連載記事のパート3では、プレス成形とホワイトボディ・アセンブリのデジタル・プロセス・ツインを取り上げ、初期段階から最終段階までの徹底的なプロセス最適化がもたらす可能性についてご紹介します。本連載記事のパート1はこちら 、パート2はこちらからご覧いただけます。

次に検証すべき問題は、プレス成形とアセンブリのバリュー・チェーンにデジタル・プロセス・ツインを導入すると、上述のようなコスト効率の目標を達成することができるかという点です。これには完全なデジタル化の主なバリュー・ドライバ、すなわちリードタイム、コスト、品質を検討する必要があります(図1を参照)。リードタイムについては、デジタル化によってトライアウトや生産立ち上げに費やす時間を短縮できます。コスト面では、デジタル化から生産、材料、トライアウト、金型のコストを削減できます。また品質においても、デジタル化を通じて部品や工程のフィージビリティ、寸法精度、サーフェス精度を改善できます。これらのバリュー・ドライバを包括すると、完全なデジタル化がOEMにもたらす金銭的価値を提案することが可能になります。バリュー・ドライバによる節減を具体的に定量化および可視化するために、本稿ではOEMのビジネス・モデル例を業界情報、ノウハウ、経験に基づき分析します。

図1: デジタル・プロセス・ツインのバリュー・ドライバ

ビジネス・モデルの構築にあたり、計画工程を完全にデジタル化した自動車OEMのお客様に適用できるビジネス・モデルのテンプレートを作成し、またROI(投資利益率)の分析も行いました。ビジネス・モデルの入力データを表1にまとめています。ここでは、年間100万台を生産し、年間4本の新型モデルのプログラムを開発する欧州OEMについて検討します。車両のプログラムごとにA部品(ボディ・サイド、フェンダ、インナー/アウター・ドアなど)およびB部品(補強部品、構造部品など)を対象とします。尚、一般的にC部品は生産を外注することが多く、バリュー計算の対象外となるため、このビジネス・モデルではC部品を検討しません。

表1: ビジネス・モデル例の入力データ

欧州OEMのビジネス・モデル例の分析結果を表2および図3に示します。エンジニアリング段階および金型工場、プレス工場、車体工場の主要業績評価指標(KPI)に対して、達成可能な節減額を示しています。この架空のOEM企業では、完全なデジタル化から創出される潜在的なバリューの合計は、年間約3,100万ユーロ(約40億26百万円)になります。しかし多くのOEM企業では、計画工程はすでに部分的にデジタル化されていて、つまりこの潜在的な節減もすでに部分的に実現されています。部分的なデジタル化とそれに伴う節減は、このビジネス・モデルにも反映されています。総額3,100万ユーロ(約40億26百万円)の滞在的な削減の余地の内、このOEMでは、現状の部分的にデジタル化されたプロセスにおいて、すでに1,570万ユーロ(約20億39百万円)の削減を達成しています。また見方を変え特定された完全なデジタル化により追加で期待できる節減額を図3に示します。

表2: 完全なデジタル化を適用したビジネス・モデルの結果例

ソフトウェア技術への100万ユーロ(約1億3千万円)の投資と、追加のソフトウェア・オペレータの人件費に対する投資を行うことで、金型工場、プレス工場、車体工場でさらに1,510万ユーロ(約19億6千万円)の削減額が追加で見込まれます。この投資の結果、短期的なROIが15になります。プレス成形とホワイトボディ・アセンブリの従来のプロセスをデジタル化することで、すでに自動車産業に大きなバリューをもたらしますが、デジタル・プロセス・ツインの導入によってさらに大きなバリューをもたらすことができます。このバリューは短期のみならず、プロセスに関する継続的な調査と改善によって長期的なものにもなりえます。

図3: 完全なデジタル化を適用したビジネス・モデルの可視化

ここで行ったビジネス・モデルの分析は、デジタル・プロセス・ツインの導入が自動車業界にもたらすデジタル・トランスフォーメーションの潜在的なバリューの大きさを示しています。

まとめ

この連載記事では、自動車業界が完全なデジタル化を通じて時代を乗り切るための手段を紹介するとともに、プレス成形とアセンブリのデジタル・プロセス・ツインの導入についても紹介しています。本稿の要点を以下にまとめます。

  • 自動車業界は、目下、未曾有の大問題に直面しています。自動車市場は不況が長引く中、世界の自動車生産台数は下落し、また新型コロナウイルスの感染拡大によってさらに助長されています。同時に、技術開発やデジタル化のトレンドが自動車業界に影響を与えているため、自動車業界は変革の真っただ中にいます。
  • 今こそ自動車業界はより俊敏で弾力的に対応し、激しく変動する市場と見通しが不透明な未来への準備を進めるときです。本稿では、シミュレーション技術の積極的な活用と、プレス成形とホワイトボディ・アセンブリの従来のプロセスの完全デジタル化によって、自動車業界に十分に定量化されたバリューをもたらすことができることを説明しています。
  • 自動車業界においては、デジタル・プロセス・ツインの導入によって、プレス成形とアセンブリ工程のデジタル・トランスフォーメーションが可能となります。すべての部門間およびすべてのサプライヤとの間でデジタル・プロセス・ツインを適用することで、情報およびデータのシームレスな流れが確保できるようになり、工程の合理化や継続的な改善を促進できます。
  • 自動車OEMにおけるビジネス・モデルとROIの分析は、完全なデジタル化のバリュー・ドライバ(リードタイム、コスト、品質)が定量的な金銭的価値に変換される様子を示します。したがって、自動車業界のデジタル化が有するバリューの潜在性を具体的に示しています。