Numisheet 2022: オートフォーム社キダムビ・カナン氏のレポートをお届けします

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 チューリッヒにて1991年に初めて開催されたNumisheet会議は、プレス成形プロセスの数値モデルの発展と進歩に寄与する国際会議で、材料挙動、成形工程、プレス金型、トライボロジ、材料試験および特性評価などの分野に幅広く対応しています。3年おきに執り行われていますが(2016年と2018年を除く)、直近ではコロナウィルス感染症による延期を経て、今年7月にトロントで開催されました。第12回目となる今回の会議は、感染症の余波もあり参加人数こそ減少しましたが、学術界および産業界から熱心な研究者や関係者が一堂に会し、世界各地の研究所や企業からの最新動向を確認したり、また有益な情報交換の場としても素晴らしい機会となりました。

 会議では主に次の研究分野に関する発表が行われました。

– 高度材料構成モデルの数値的取り扱い
– プレス成形プロセスのモデル作成
– プレス成形プロセスの力学
– 破断判定モデルの作成
– トライボロジ/摩擦の処理

 どれも長く研究が行われてきた分野ではありますが、一方では、世界の自動車産業にもたらされた新たなイデオロギの軸となる軽量化、安全性、電動化に関しても最先端の研究開発が進んでいます。先進的な材料等級の開発が進む一方で、マルチスケール解析や結晶塑性法、さらにはAIや機械学習を活用した材料特性評価と材料挙動のモデル作成についても研究は大きく進展しています。これらはすべてデジタルエンジニアリングとシミュレーションツールの精度向上と適用範囲の拡大を目的としています。材料の破壊挙動の検証および特性評価も注目すべきテーマのひとつです。

 オートフォーム社テクニカルディレクタのバート・カーレア博士が「デジタルプロセスモデルの効果的活用法(An Effective Way to a Digital Process Model)」と題した基調講演で改めて紹介したAutoFormパレートの原則は、シミュレーションの結果精度に関する指針であり、Numisheet国際会議の研究分野においても大変有意義に活用できるものです。

 今年の Numisheet国際会議で取り上げられたトピックが赤枠で示されています。新たに先進的な材料等級のシミュレーションを実行する場合、材料特性を正確に把握すれば、シミュレーション結果の精度向上につながります。またトライボロジのモデル作成もシミュレーションの精度を高める上で重要な役割を果たします。「詳細」に分類された項目の中には、研究開発やそれに伴う投資が活発に行われているものがありますが、それは項目の重要性が高まっていることを示しています。

 以下、近年注目を集めている研究分野をいくつかご紹介します。

 結晶塑性法とシミュレーション

 プレス成形中のシート材の挙動は、非常に複雑な関係ではあるものの材料の微小構造が直接的に影響します。原子の配列が結晶粒を構成し、化学的性質に応じて分布する「相」と、そのサイズや形状などのすべてが影響を与えます。

 工業分野では通常このような材料の「ミクロスケール」の特徴を考慮することはありません。シート全体が均一なモノリシック材(単一特性を持つ材料)として、シミュレーションに使用する材料の特性を評価するため、特性評価は「マクロスケール」となります。正確な特性評価には、引張試験、バルジ試験、FLC試験など、多くの機械的試験が必要です。一方、結晶塑性法では材料の微細構造、つまり「ミクロスケール」の特性からマクロスケールの機械的挙動を予測します。微細構造の特性評価は、走査電子顕微鏡法(SEM)や関連技術を使用して行われます。これはもはや最先端技術とは言い難いものですが、しかしまだ商業利用ができる段階には至っていません。しかし材料挙動の特性を標準的な数値で評価できる場合があるため、シミュレーション結果の精度が向上します。今回のNumisheet 国際会議にて発表のあった材料特性の評価において、特筆すべきものをいくつかご紹介します。

6000系アルミニウムの異なる調質下でのFLCと、
(下)
DP600鋼の圧延方向からの角度差に対応するR

金型とプレスのたわみがシミュレーション結果に及ぼす影響:

 金型とプレスのたわみが、特にスプリングバックに対して大きく影響することが明らかになり、さまざまな手法が検討されはじめています。

 起亜自動車はオートフォーム社およびMIDAS IT社の協力のもと、プレス成形シミュレーションを使用して、プレス金型のサーフェスに発生する接触応力から金型構造に生じるたわみを計算する方法を紹介しました。機械加工用サーフェスのデータを出す前に、算出したたわみをプレス成形解析で作成した見込み補正面の上に重ねます。

 次の投稿記事では、2022年のNumisheet国際会議で発表したとおり、R&Dプラグインがどのように研究調査で活用されているかをご紹介する予定です。どうぞご期待ください。