「女性の視点から読み解くプレス加工業界」の連載は、多くの読者に好評をいただいています。本稿では、フォード・オトサン社のベルナ・トゥナリが自身の経験について語ってくれました。この談話は、業界に新たに就職する女性たちに勇気を与えてくれる内容です。
私は自動車業界で実りある9年間を過ごし、現在はトルコの先進企業であるフォード・オトサン社に勤務しています。女性として、男女平等を真に推進し、女性の成長を支援する企業で働けることを幸運に感じています。しかし、ここまでの道のりは決して楽なものではありませんでした。フォード・オトサン社に入社する前、女性がまだ少数派であったこの業界で、自分の能力が認められるまで多くの試練を乗り越えてきました。
女性も男性と同じようにプレス加工業界で成功できることを証明したいと、日々奮闘しています。ここでは自分の経験をもとに、プレス加工業界で活躍したいと考えている女性たちへのアドバイスをお伝えします。
学生から社会人へ
自動車業界に対する私の情熱は、すでにこの業界に就職していた従兄弟たちから刺激を受けたことから始まりました。また私は自動車産業に大きく依存する都市で育ったので、自然とこの業界への就職を熱望するようになりました。
この人生の旅の始まりは、機械工学の学位取得からでした。大学では、ほとんどが男性のクラスで私は唯一の女性でした。最初は大変でしたが、すぐに友達もでき、自分の居場所を見つけることができました。
アナドル大学では経営学の学士号も取得し、エラスムスの学生交換プログラムを通じて、1学期をスペインで勉強する機会にも恵まれました。この経験は、私の視野を広げ、新しい文化や言語に触れる貴重な機会となりました。
トルコの金型メーカーでプレス加工技術者として初めて就職するまで、就職活動に1年かかりました。企業は職務経験者を求めることが多く、新卒者、特に女性にとっては厳しい状況でした。また性別による偏見もあったと思います。多くの企業からは面接すら受けることができず、不採用とされたのです!
社会人になってすぐに感じた壁
正直に言うと、最初の就職先である世界的に有名な金型メーカーでは、入社当初は苦労の連続でした。新卒採用だったため、まだ知識も限られている中、男性が圧倒的に多い分野で女性である私は、自分の能力を証明しなければ信用されないと常に感じていました。
大学で機械工学を学んだ際、私がクラスで唯一の女性であったことが、職場の力関係を理解し、人間関係に対処する上で非常に役立ちました。私が真剣に職務に取り組んでいることが伝わるよう、あえてカラフルな服や女性らしい服装は避けるようにしていました。周囲に固定観念を植え付けることがないように、同僚にお茶やお菓子を用意することもありませんでした。
最初の就職先で5年勤務する中、自動車に関する論文で修士号を取得しました。この実務経験と大学院での学びが功を奏し、ついに私は業界の核心部へと進むことになったのです。
新たな「家族」であるフォード社
2021年、私はフォード・オトサン社で新たな仕事を得ることができました。これが大きな転機となったのです。ここで周囲から大きなサポートを受けたおかげで、自信と才能を開花させることができたと思います。入社して間もなく、私は6か月間の暫定チームリーダーに任命され、きちんと役目を全うしました。この経験から、機会さえ与えられれば、女性も男性と同様に技術と管理の両面で優れた能力を発揮できるという確信を得ました。性別に関係なく、どんな分野でも成功できることが証明されたのです。
フォード・オトサン社の男女平等への取り組みは目覚ましいものがあり、その背景には、同社が強く推進する多様性、公平性、包括性に関する方針があります。フォード・オトサン社では、性別よりも技術と能力が重視されています。女性は高く評価されており、現在では管理職の半分は女性が占めています。これは基幹産業の強固なガラスの天井を打ち破る上で極めて重要な変化であります。
プレス加工業界にて女性が担う役割の進化
この9年間、プレス加工業界に生じる前向きな変化を目の当たりにしてきました。私が初めてこの業界に就職した当初は、プレス部門で働く女性はほとんどいませんでした。この状況は今も同様ではあるものの、改善はされています。プレス部門には高度な技術が求められ、また、非常に多くの業務をこなさなければなりませんが、非常にやりがいのある仕事です。より多くの女性や若者がこの業界で活躍できるよう推進してゆくことが自分自身の責任だと感じています。
女性が活躍する成長分野
他の分野と比べると、プレス加工業界はまだ発展途上にあります。専門技術の取得が必須であり、また複雑な作業を伴うことも多い分野です。しかし、とてもやりがいがあるので、特に若い女性の方々に興味を持っていただければと思います。
実際、女性はこの業界に多大な価値をもたらす存在であることに間違いはありません。たとえば一般的に、女性は細かな作業や繊細な作業に優れている傾向にあるため、高品質な製品を生み出すことができます。またチームワークやコミュニケーションがより円滑になり、生産性向上につながっていくことでしょう。
女性がプレス加工業界で成功するには
経済活動において、女性が多くの試練に直面することは否定できないものであり、それはプレス加工や技術分野に限った話ではありません。賃金格差や否定的な固定観念、また仕事と同時に家事育児を担うために出世が遅れがちになる傾向は、非常に一般的に目の当たりにする障害です。
私からアドバイスするならば、常に自分自身を磨き、心の支えとなるメンターを見つけ、性差別と戦い、なにより自分の能力に絶対的な自信を持つことです。もし可能であれば、卒業前にインターンシップに参加して実務経験を積むことをお勧めします。
フォード・オトサン社は、現在のところ、溶接部門、ギガキャスト、プレス金型の3Dプリント分野の事業に力を入れています。こうしたニッチな分野が急速に台頭してくるということは、すなわち自身の専門性を発揮できるチャンスが出現し、就職機会が大きく広がることを意味しています。将来のキャリアを強く意識する女性は、今からこのような新たな分野を開拓してゆくべきです。
高所得を得る可能性を最大限に引き出すには、まず専門技術を身につけ、高いスキルを有することが重要です。 プレス加工の技術知識があれば、有能な社員として認知される上で非常に有利に働きます。たとえば、CNC加工やCADソフトウェアなど、先進的な製造技術をぜひ習得してください。
総論としては、業界の最新動向や革新技術に目を向けてください。業界のトレンドに対して敏感になり、常に最新情報を入手するのです。プロジェクトで重要な責務を担い、経験を積むことで、専門性を高めてゆきましょう。
社会変革が進行しているとはいえ、この業界には依然として旧来の考え方に基づく経営や家父長的な雇用体系が多く残存しています。そのような状況に遭遇した際には、特に女性は自信に満ちた態度で、豊富な知識を盾に、プロフェッショナルであることを誇示することが特効薬となるでしょう。
自動車業界で培ってきた私自身のキャリアは、多くの試練に直面しながらも、非常にやりがいが感じられるものでした。この業界で活躍したいと願う女性の皆さんには、私の経験談から勇気を得ることができたのであれば幸いです。男性同様、女性の私たちも卓越した存在となり、他の人々を導く立場となることができることを示すことができればと願っています。
Formingworld.com / JapanForming.com読者の皆さんを代表し、ベルナ・トゥナリさん、示唆に富む体験談を共有していただき、ありがとうございました。
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