ベスカー鋼として適用可能な材料特性を見極める — 材料カードの代用

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「相当ではない相当材」から考察する相当材料等級の課題

オートフォーム社ソーシャル・メディア・マーケティング部門のスタッフが、世間を賑わせたテレビシリーズ、マンダロリアンのヘルメットをプレス成形で製作した記事を投稿したところ、これが大きな反響を呼び、このヘルメットの製作に関するさまざまな意見や質問が寄せられました。中でもぜひ紹介したい興味深い質問がこちらです。「マンダロリアン鋼(いわゆる「ベスカー鋼」)の材料カードはAutoFormで選択できますか。あるいは代用できる相当等級を教えてください」

図1: マンダロリアンのヘルメット – 製作を実現できるかAutoFormで検討

 地球に住む人間の生活には何の関連もない話だと、戸惑う人もいるでしょう。しかし実は大いに関係があるのです。オートフォーム社では「この材料等級の材料カードはAutoFormに適用できますか。もしできない場合はどの相当等級を推奨しますか」というお問い合わせをよくいただきます。

 一般的な相当等級をご案内することもできますが、それには重要な注意点があります。世界のさまざまな材料の名称を比較することは、ミレニアムファルコンが帝国軍艦隊に封鎖されたケッセル・ランを12パーセクもかからず飛びぬけるのと同じくらい難しく危険なことなのです。オンラインで閲覧できる比較表の多くは、相当特性の一致率が75%程度にしかなりません。しかしこの材料特性の裏事情をご理解いただくことで、この一致率にも納得していただけるかと思います。材料の名称は、一般的に、材料の機械特性に由来するものと、化学特性に由来するものがあります。たとえば前者には鋼材、後者にはアルミが該当します。

 詳細は省きますが(後日改めて記事を執筆するかもしれません)、一般的にアルミなどの材料にはアルミニウム協会の記号(例: AA6016、AA5182)が採用されています。これはその材料等級の機械特性ではなく、製品の化学特性に基づくものです。アルミのメーカーは複数の等級(特に6000系材料)の生産を巧みに調整して、成形、曲げ、焼付塗装反応などの用途に優れた材料を生産し、自社ブランドとして販売しています。しかし本質的に、複数のアルミ等級がすべてAA6016-T4であっても、機械的特性もすべて同じであるとは限りません。ただしアルミニウム協会を非難する前に、ステンレス鋼の業界もまた同様であることをご理解ください。ステンレス鋼の場合、たとえば同じ等級でもDQ、DDQ、EDDQといったバリエーションがあります。

 鋼材の分類はもっと明快だと思われる方もいらっしゃるかと思います。鋼材は降伏応力がX以上、引張強度はY以上Z未満といった機械特性の仕様に基づいて生産されます。このように考えがちですが、しかしASTM、ISO、JISといった国際規格に目を向けると、捉え方が異なってきます。まず引張試験については、たとえば試験片の寸法(A50とA80のドッグボーン型試験片)や圧延方向に対する試験片の姿勢だけを考えても、すべて同じ条件下で試験が行われたとは考えられません。つまりこれは全く異なるリンゴとミカンを比較しようと試みるようなものです。これをスター・ウォーズのたとえで言い換えると、旧3部作と特別篇と新3部作を比較するような無謀さです。さらには、どの国際規格にも該当しない材料が相当数あることもお伝えしなければなりません。多くの場合、ある大手OEMの要件を満たすために数社のメーカーが開発した特殊なニッチ製品です。

 いやはや、ため息が出るばかりです。しかしこれだけではありません。材料特性の仕様が国際的に規定されていても、その境界が重複していることも特筆するに値します。それがために、A社がある材料をASTM相当と指定しても、B社では異なるJISに相当する等級を指定するようなことが起こりうるのです。さらに蟻地獄と化したサルラックの巣穴に飲み込まれていくような深みにはまっていくと、同じ会社の製品であっても、製造工場によって使用する機械設備やその使用年数が異なることで、材料特性に違いが生じることにもお気づきいただけるかと思います。ただしここまでくると、本稿の趣旨から脱線してしまいますね。

 というわけで、スターウォーズのファンたちの間で長年続く「ハンが先に撃った」論争と同様に、多くのお客様が材料カードについてさまざまなご意見をお持ちのようです。本稿では、オートフォーム社独自の材料等価テーブルがオンライン・サービスセンターに追加されたことを機に、お客様からよくお問い合わせいただく疑問のいくつかにお答えすることができました。しかし残念ながら、ジャー・ジャー・ビンクスが登場した理由まではわかりかねること、ご容赦ください。この材料等価テーブルは未だ初期の構築段階にあり、今後数ヶ月かけて整備していく予定ですが、現時点では、鋼材、ステンレス鋼、アルミニウムの基本等級について掲載しています。ただし、ベスカー鋼やデュラスチールなどの特殊素材に相当する材料を含められるようになるのは、数世紀先になるかもしれません。

  • 画像: Allgaier社提供