エンジニアリングの枠組みに、デザインやエンジニアリングのプロセスと整合した標準構造が必要な理由
「金型の品質が職人の仕事の質を左右する」という話を聞いたことがあるでしょうか。もちろん、熟練の職人技で仕上げた高品質な金型を使用すれば、製造業務のみならず、最終製品の仕上がりも良くなります。これはエンジニアにとっても、業務を担う上で優秀なソフトウェアツールが必要不可欠であるという点では同様です。
昨今のシステムエンジニアリング分野では、ソフトウェアが重要な位置を占めています。システムエンジニアリングとは、一連の要求、期待、制限を「実用的なエンジニアリング」としてのソリューションに落とし込むために、必要な技術と管理の両面を統括するアプローチです。 技術専門部門や標準化部門は、ISO 9001-2015 第5版標準に記載されている品質管理原則など、エンジニアが自身のプロセスやエンジニアリングツールの品質評価を行う方法についてガイドラインを定義しています。
エンジニアリングは通常、多岐にわたる部門や部署が関わる高度な共同作業です。すなわちISO 9001-2015によると、組織全体による効果的かつ整合性のある共同作業をサポートするソフトウェアツールが必要となります。
そこで、まず最初に確認すべきことは次の通りです。
実用的なエンジニアリングのプロセスをサポートするソフトウェアツールはどこにありますか?
後者については、標準ISO/IEC TR 24474:2021「システムおよびソフトウェアエンジニアリング – ライフサイクル管理 – 工程記述のためのガイドライン – ソフトウェアエンジニアリング知識体系ガイド(SWEBOK)」にて対応することができます。
この標準で重視すべきコンセプトのひとつは整合性です。ここでの整合性とは、製造工程(プレス成形、BiWアセンブリなど)のシミュレーションに使用するコンピュータモデルが、すべての領域において、矛盾した要求や不合理な要件を含まないことを意味します。またほかにも、目的に適したソフトウェア技術であること、そして入力データの信頼性や精度なども挙げられます。当然ながら、アルゴリズムの精度は入力データの信頼性とモデルの精度に比例します。この整合性を損なう例としては、正確な入力データに対して概算アルゴリズムを使用すること、またはその逆が挙げられます。
ソフトウェアの整合性を分析する方法として、AutoForm正確度指標やAutoFormパレートの法則(JapanForming.comブログ公開記事: パート 1, パート2, パート3, パート4, パート5, パート6)などがあります。
図1. プレス成形工程におけるAutoForm正確度指標およびパレートの法則
AutoForm正確度指標には、整合性があり有効かつ正確なコンピュータモデルを作成する上で不可欠な8つの観点が提示されています。
- 材料仕様
- トライボロジシステムと摩擦モデル
- シミュレーション標準
- 工程定義
- 機械動作
- 金型、部品、治具の形状
- 結果評価
- 工程のロバスト性
エンジニアリングの目標を達成するには、これらすべてを満たす必要があり、また開発やエンジニアリングのプロセスを通じて継続的に進化していきます。
ドロービードやダイサーフェスのレイアウトなどは、部品や製品のデザインに含まれる初期条件の材料仕様や部品形状から定義することができます。しかし後のフィージビリティ検討段階では、評価基準をもとに金型動作や形状(部品形状を含む)をアップデートし、さらに新たな工程要素を追加または更新することで、部品の品質を担保しなければなりません。
これらのアップデートを行う際には、生産条件のばらつき(例:トライボロジ、金型のクリアランス、パラメータのばらつきなど)の入力値が現実的であること、また適正な評価を通じてロバスト性の目標を達成することが重要です。 このコンピュータモデルのアップデートは、エンジニアリング工程全体を通じて行われます。詳しくはバート・カーレアが執筆した、プレス成形工程のエンジニアリングに適用するAutoFormパレートの法則に関する記事で詳説しています。
エンジニアリングの共同作業をサポートするには、ソフトウェアのシステムアーキテクチャがあらゆる面においてAutoForm正確度指標に対応している必要があります。さらにソフトウェアアーキテクチャは、実際のエンジニアリングのワークフローと一致している必要があります。
階層的なソフトウェア構造では、システム、サブシステム、コンポーネント、ユニットが、確認や検証のプロセスにおいて実用的なエンジニアリングを反映している必要があります(図2参照)。
図2. 連動するシステムエンジニアリングと階層的ソフトウェアVeeモデル(データ構造)
シミュレーション設定標準は、AutoForm正確度指標の基盤となります。そしてAutoFormガイドラインは、システムエンジニアリングの原則を満たした標準設定を提供するものです。すなわちソフトウェアシステムは、実際の開発およびエンジニアリングのワークフローモデルに基づくものでなければなりません(例:AutoFormパレートの法則を使用)。ソフトウェアシミュレーション標準におけるソフトウェアフィーチャー(精度面)の割り当ては、機能やコンポーネントがベースとなるのではなく、意思決定プロセスに準じています。図2は一見すると機能ベースの階層図のように見えます。しかし上層部からプロセスチェーンに沿った意思決定プロセスについて考えると、実際には、オブジェクト(方法論)志向の構造の中に、別の階層構造が見えてきます。この意思決定構造の階層によって、正しい意思決定に基づく工程改善の整合性が担保されます。
AutoFormソフトウェアシステムは、重要なマイルストーンやプロセスチェーン全体を通じた意思決定の局面で、エンジニアリングの段階に応じた標準を提供します。たとえば、シミュレーションの標準設定であるCE(コンセプト設計)、CE+(コンセプト設計プラス)、FV(最終検証)は、初期フィージビリティから最終検証までのさまざまなエンジニアリングの段階に対応しています。これらはエンジニアリングの段階に対応した適切なシミュレーションパラメータの選択をサポートするように自動調整されます。また設定はAutoFormパレートの法則に鑑みて常に検証されています。ソフトウェアシステムエンジニアリングにおける整合性のコンセプトは、AutoFormソフトウェアの包括的統合計画の中核を成すものです。
- 従来の機能重視のコンポーネントやオブジェクトをベースとしたソフトウェア設計戦略を組み合わせたもの。
- 階層的なソフトウェアアーキテクチャによる実用的なエンジニアリングの意思決定プロセスから構築する体系的なインテグレーション戦略。
- 整合性の高いシステムエンジニアリングを実現する自己検証Veeモデル:左側のソフトウェアによる確認は、右側のシステムエンジニアリングプロセスの検証を反映させたものです。AutoFormの顧客検証工程では、デザインファイルから直接ガイドラインと標準ファイルを活用できます。
ユニット試験後のソフトウェア試験では、統合の整合性が最優先されます。統合の整合性とは、すべてのソフトウェアコンポーネント間の相関関係を検証するプロセスです。統合システムの階層構造を確認するには、トップダウンとボトムアップの両アプローチが有効です。しかしAutoFormでは、正確度指標およびパレートの法則を使用した最新の包括的で体系的な統合戦略を採用しています。統合試験は実際のワークフローの各ステージで継続的に実施されます。システムエンジニアリングの整合性を確認する効率的かつ効果的な方法として、自己確認検証Veeモデルが採用されています。
まとめると、統合システムエンジニアリングの性能確認やソフトウェア標準データ構造の検証において、整合性こそが最も重視されるべきものです。整合性に関しては、以下の点を考慮する必要があります。
- このソフトウェアはエンジニアリングの目標を達成するために十分であるか。
- すべての領域において、モデルに含まれる矛盾した要求や不合理な要件を含んでいなか。
- システムエンジニアリングや階層的ソフトウェアで使用されるVeeモデルは、ソフトウェアシステムと実際のワークフロー間で確認および検証を行う自己修正に使用します。
- AutoForm正確度指標とパレートの法則は、シミュレーションと設定の整合性を担保する上で有用です。
- AutoFormソフトウェアシステムのエンジニアリングは、実際のプレス成形におけるシステムエンジニアリングの目標達成をサポートします。
引き続きお付き合いください。この本連載の次号では、スマートエンジニアリングのコンセプトについてさらに掘り下げ、プロセス、ソフトウェア、モデル精度の観点から、デジタルプロセスツインの予測能力について考察を進めます。特にフォワードエンジニアリングのアプローチをもとにデジタルツインを効率的に実現する方法と、成功を収めるために注意すべき重要な不具合について説明します。