現代のエンジニアリングでは、さまざまなニーズに対応するため、有限要素法(FEM)をベースとした多くのシミュレーションソフトウェアが大学、研究機関、企業によって開発されてきました。ソフトウェアはそれぞれ異なるコンセプトに基づいて設計されており、その違いは実務での活用に大きく影響します。そのため、設計者や技術者、さらには製造業における意思決定者にとって、FEMによる数値シミュレーションの代表的な実施方法と、それぞれの特徴を理解しておくことが重要です。こうした知識があれば、目的に応じてシミュレーションの計画、実施、評価をより効率的に進めることができます。本記事では、FEMを用いた数値シミュレーションの実装を特徴づける技術に着目し、各プログラムがどのような方式に基づいて開発されているのかを詳しく解説します。
基本方式:
FEMソフトウェア開発者がシミュレーションソリューションを実装する際に採用してきた方式は、基本的に2つあります。それが「水平型」と「垂直型」です。
「水平型」の方式:
水平型の方式では、ユーザーがシミュレーションモデルを構築する際に、できるだけ幅広い選択肢を利用できるようFEMが実装されています。そのため、1つのプログラムでさまざまな問題に対応できることが大きな特徴です。さまざまなタイプやトポロジー、要素定式化に加え、豊富な解析オプション、収束のコントロール、結果評価の基準などが用意されていて、これらの機能を組み合わせることで、それぞれの解析対象に最適なモデルを構築できます。たとえば、構造解析、熱解析、衝突解析、振動解析、座屈解析など、対象となる物理現象ごとに適切なモデルと固有の特徴や要件を個別に設定する必要があります。
このように水平型のプログラムは非常に汎用性が高く、幅広い分野で利用できます。一方で、その性能を十分に引き出すには、FEMに関する高度な知識と豊富な経験が求められます。モデルの妥当性や計算精度、解析効率はユーザーの設定に大きく左右されるためです。たとえば、要素タイプの選択、メッシュのリファインメント、境界条件の設定などを適切に行わなければ、十分な精度の結果が得られない可能性があります。
図1は、水平型で構築されたFEMシミュレーションの例を示しています。構造物の応力を3種のモデルで解析していますが、いずれも同等の解析結果が得られています。
図1:ソリッド要素、シェル要素、ビーム要素のシミュレーションモデルで構造物の解析を実行。それぞれ特徴や計算効率は異なりますが、いずれも同等の解析結果が得られています。
「垂直型」の方式:
垂直型の方式では、対象となる現象を最も適切かつ効率的に表現できるFEMシミュレーションモデルを、プログラムが自動生成するよう設計されています。モデル構築の責任はユーザーではなくプログラム開発者が担い、これをユーザーに任せることはありません。要素タイプの選択、メッシュのリファインメント、計算の収束基準といった専門的な設定は、あらかじめ定義されたルールに基づいてプログラムが自動的に適用します。またこの種のプログラムには、技術者や設計者が実務で用いる技術用語を、シミュレーションの設定や計算に必要な数値パラメータへ「変換」するインターフェースが組み込まれています。ユーザーは普段の業務で使い慣れたコンセプトや用語を用いて設定できるため、モデルが不適切なために誤りが生じるリスクが大幅に低減されます。
一方で、垂直型システムの活用は開発時に想定された問題の解析のみに限定されます。水平型のような高い柔軟性は持たず、幅広い問題に対してユーザーが独自のモデルを構築することもできません。モデル構築時のエラーを防ぎ解析の整合性を担保するため、入力データや数値パラメータも一定の範囲に制限されています。そのため垂直型のFEMシミュレーションは、一般的に、鋳造、プラスチック射出成形、プレス成形など、特定の製造工程を対象としたソフトウェアで採用されています。高い効率、精度、安全性を実現できますが、適用範囲や汎用性は限定されます。
実装と運用への影響:
FEMシミュレーションソフトウェアの実装方式には水平型と垂直型があり、それぞれに異なる特長と利点があります。その違いは、ソフトウェアの導入、運用、そして実務で得られる効果にも大きく反映されます。
水平型の方式を用いたプログラム:
新しい部品やシステム、製品を開発する際には、強度、効率、耐久性、ノイズの低排出など、さまざまな運用条件を満たす必要があるため、水平型のプログラムが適しています。汎用性が高く、固有振動数や温度分布の検討から、構造応力、疲労耐久性、座屈耐性、衝突などプロジェクトの承認に欠かせない基準の評価まで、さまざまなシミュレーションを幅広く実行できます。担当技術者はこれらすべての解析を1つのソフトウェアで実行できるため、導入コストの削減、迅速な実装、そして日常業務の効率化を実現できます。対応できるモデルのオプションが広範で汎用性に優れているほど、より柔軟にニーズに応えることができます。
このような環境では、ユーザーの責任は、主に開発中の新製品に潜在的な不具合がないかを検証し、その結果を製品設計者や技術者へ報告することに限られます。解析結果は通常、技術報告書にまとめられ、それを基に設計者や技術者が必要な設計変更を行います。設計が更新されると、そのデータは再び解析担当者に戻され、不具合が解消したことを確認するため解析が再度実施されます。このような双方向のプロセスでは、解析担当者は、精度と効率に優れたシミュレーションモデルの構築に必要な知識と経験を習得することのみに集中できます。CAD形状の修正や設計要件の検討、材料の選定、アセンブリのフィージビリティ検討といった設計関連の業務に時間を割く必要がなくなるためです。
その結果、水平型システムのユーザーはシミュレーション技術の高い専門知識と豊富な経験を身につけることができますが、プロジェクト開発全体においては、他部署との関わりが比較的限定されます。そのため設計担当と解析担当が連携し、両者が協力的に連携しながら業務を進めるための取り組みが必要です。データ交換を効率的に行うことで情報共有の迅速化を図り、コミュニケーションの行き違いを最小限に抑えることが求められます。
水平型でFEMシミュレーションシステムを開発する企業とその顧客との関係は、主に必要な数値モデルを生成するためのリソースの活用に関する技術サポートを中心に成り立っています。サポート担当者には、各要素タイプに適用する数値モデルの挙動、メッシュ生成機能、ソルバーの特性などに関する深い知識が求められます。ユーザーが用途に応じて適切なオプションを選択し、十分な精度と収束性を担保できるよう支援するためです。一方で、このプログラムはさまざまな現象や条件に対応できるよう設計されているため、開発者や技術サポートの担当者が、特定の用途について深い専門知識を持つことを期待すべきではありません。一般に、これらの技術者は解析対象となる製品や部品の実際の挙動を理解し、設計要件や評価基準を定義する役割を担いません。むしろその責任は顧客側のユーザーにあり、これらの業務を自立して行う必要があります。
垂直型の方式を用いたプログラム:
システムや製品の仕様が固まると、次は構成部品の製造や、必要な金型の製作へと進みます。この段階では、それぞれの部品タイプを専門とする部署や社外のサプライヤが加わるのが一般的です。この段階でのシミュレーションは、熱の影響、材料の相や特性の変化、形状の大きな変形といった複雑な現象を扱うため、高度な解析が求められます。一方で、部品メーカーや金型メーカーは通常、特定の製造工程に特化しているため、シミュレーションも専門性が非常に高くなります。
このような場合には、垂直型のシミュレーションソリューションが有利です。一方では、製造工程のシミュレーションモデルは複雑であるため、ユーザーには高度なFEM知識とモデリングのスキルが求められ、解析でエラーが生じるリスクも高くなります。他方、製造工程に精通した技術者、つまり生産設備や金型の製作や運用に長年の実務経験を持つ現場の担当者が、複雑な解析モデルを構築するために必要な緻密で学術的な作業まで担うのも難しい場合があります。垂直型ソリューションでは、こうした複雑な作業をソフトウェアの開発者側があらかじめシステムに組み込んでいるため、ユーザーにはFEMの深い知識は必要ありません。代わりに、自らの実務を通じて得た専門性を活用し、シミュレーションから検出された不具合を解消することに集中できます。
このような理由から、垂直型は水平型とは異なる形で活用されることが少なくありません。大きな違いは、専任のシミュレーション専門家を必要としない点にあります。垂直型では、工程開発や金型設計の担当者が自らシミュレーションを実行して不具合を特定し、実務から得た経験や知識を基に改善策を検討・実施することができます。また、このようなソフトウェアを他の用途には利用しにくいことも、これらのプログラムを他の目的に使用できないことは、もはや大きな懸念事項にはなりません。製造技術の現場は、本質的に、それぞれの工程が高度に専門化されているためです。
同様に、垂直型のユーザーがFEMに精通しているわけではないため、サポートへの問い合わせも、シミュレーションに用いる数値モデルのパラメータに直接関係するものはほとんどありません。むしろ、製造工程に関する実務レベルの情報を、シミュレーションに必要な入力データへどのように反映すればよいかといった内容が中心となります。そのため、この種のソフトウェアの技術サポート担当者には、FEMに関する知識だけでなく、対象となる製造工程に対する深い理解も求められます。するとユーザーが日常的に使う言葉でコミュニケーションを取ることができるようになります。また現場における金型技術の進歩を吸収し、それらの情報を開発チームへフィードバックする重要な役割も担うことができます。このようなフィードバックの循環によって、各方面の技術的進歩に対応しながらソフトウェアを継続的に改善してゆくことが可能になります。
AutoForm活用事例:
AutoFormは当初からプレス成形シミュレーション、そして近年ではプレス部品のアセンブリシミュレーションに特化した垂直型のFEMソリューションの開発を構想してきました。ソフトウェアに搭載されているすべての機能は、プレス成形およびプレス部品のアセンブリに集約されます。
AutoFormは初回リリース以来、プレス成形工程、そして現在ではアセンブリ工程を対象に、シンプルで高速なシミュレーションを通じたソリューションを提供することを目指してきました。そのため、FEMの専門知識を持たないユーザーであっても、部品・金型開発や生産の各段階で生じうる不具合を迅速に特定できます。工程技術者や金型設計者は、部品や金型の形状、あるいはプレス成形やアセンブリのパラメータを検討することで、部品、工程、金型を最適化するために必要な情報を事前に得ることができます。このような修正案はシミュレーションを活用すれば短時間で検証できます。AutoFormユーザーはFEMモデルを意識することはほとんどありません。図2に示すように、ユーザーの多くは要素コンターを表示してメッシュを確認することすらせず、シミュレーションの結果に集中して評価しています。
図2: AutoFormの結果。ドロー後のシートの伸び状態(左)と、最終部品の弾性ひずみ(右)を示しています。どちらの場合も、FEMメッシュは有効です。[SC1]
しかし金型開発、プレス部品の生産、アセンブリには、特定の成形条件や組立条件におけるシートの挙動解析だけでなく、さらに多くの業務が含まれます。そのため、シミュレーションと同じスピードで関連作業を進められるよう、これまで各種機能が追加されてきました。現在AutoFormには、金型形状の生成や迅速な修正、金型コストの見積もり、スプリングバック見込み補正、制御因子および誤差因子が成形におよぼす影響評価などに特化したモジュールなどが搭載されています。これらの機能はAutoFormのFEM解析機能を補完し、ユーザーに高いインタラクティブ性と効率を提供する、包括的で統合されたソリューションを構成しています。またこのプログラムはプレス部品の生産ラインを効率的に管理するうえでも役立ちます。
AutoFormは垂直型でありながらも、FEMに精通した専門家ではなく、主に工程定義や金型・治具設計の経験を持つユーザーに利用されています。そのためソフトウェアは汎用性と使いやすさを備えており、数週間のトレーニングを受講するだけで効果的に活用することができます。そしてAutoFormは、プレス成形やアセンブリ分野の経験を持ち、業界の専門用語やコンセプトを用いてユーザーと対話できる技術サポート体制を築いています。技術サポートのメンバーは、プログラムで使用しているFEMのコンセプトだけでなく、各製造工程についても具体的な助言ができます。このようにAutoFormは顧客にとって信頼できるパートナーとして、世界各地のプレス成形・アセンブリ業界を代表する大手企業と密接に連携してきました。
AutoFormはプレス成形・アセンブリに関わる現象を解析する効率的なFEMシミュレータに、部品および工程開発を支援する各種機能を組み合わせることで、この特定分野に注力してきました。その結果、速度、精度、使いやすさを備えた、特定用途に最適化された効率的な仕組みを実現しています。いまやAutoFormはプレス部品およびアセンブリの開発に欠かせないツールとなっています。
Leandro G. Cardoso













