自動車業界では、アセンブリ工程におけるホワイトボディ(BiW)部品の形状品質を向上させながら、リードタイムと開発コストを削減することが常に求められています。
図1:ゲスタンプ社BiW生産ライン
従来、溶接およびアセンブリ工程の調整は実機のトライアウトによって行われてきましたが、プレス工程で生じた、さまざまなばらつきが積み重なるため、多大な時間とリソースが必要でした。本稿では、ゲスタンプブラジル社にて、シミュレーションサイクルにバーチャルアセンブリを組み込んだ事例をご紹介します。
この手法では、プレス成形シミュレーションで得られたCADデータと、最適化されたスプリングバック見込み補正結果を直接連携させることで、従来は分断されていた工程間のつながりを確立します。標準化されたワークフローの中で、CADデータと最適化されたスプリングバック対応データを活用することにより、プレス部品に対する2回目の実機トライアウトを不要にできます。また、治具を製作する前の段階でクランプ方策を検証することも可能です。さらに、個々の部品の3Dスキャン結果を、レイアウト検討や生産準備の段階で活用できるようになります。
実機へ適用した結果、解析を組み合わせることで意思決定の精度が向上し、アセンブリ寸法品質のギャップ低減と新規案件の信頼性向上を実現しました。また、これにより、ゲスタンプ社は自動車および金属・機械分野における産業用バーチャル化のベンチマークとしての地位を確立しました。
図2: ゲスタンプオートモーティブ社
現代の自動車製造では、設計と技術の緊密な連携が不可欠です。その複雑な工程の中心となるのがBiW(ホワイトボディ)であり、数百点に及ぶプレス部品を溶接して、安全性と外観品質の要件を満たす車両の構造フレームを形成します。この段階で長年課題となっているのが寸法のばらつきです。CADモデルに完全に一致する部品であっても、スプリングバックの影響により、成形後に正確な形状を維持することはほとんどありません。
図3: プレス成形工程
スプリングバック(弾性回復)は、プレス成形工程における複数の要因によって発生します。特に材料やブランクの機械的特性(降伏強度、引張強度、異方性、板厚)、成形形状(曲げ半径、角度)、加工条件(クリアランス、温度、摩擦)がばらつくためです。この影響を抑えるため、公差内に収めながら、CAD形状にできるだけ近い個々の部品を製造する目的で、修正や見込み補正が行われます。ただし、これらの補正によって個々の部品の寸法精度が向上しても、アセンブリ全体が必ず寸法要件を満たすとは限りません。
本稿では、ホワイトボディ(BiW)の工程設計について、問題が起きてから対応する従来の方法から、事前に課題を予測して対応する包括的な方法へ移行する取り組みをご紹介します。主な目的は、設計段階での想定と生産現場で実際に起きることとのギャップを埋めることです。ゲスタンプブラジル社は、バーチャルアセンブリ(図4)を通じてAutoForm FormingとAutoForm Assemblyを連携させることで、生産性を最適化するとともに、顧客からの信頼をさらに高める新たな基準を確立し、新たなビジネスチャンスの創出を目指しています。この手法により、シミュレーションを技術面とコスト面の実現可能性を見極めるための重要な手段として活用でき、見積もり、工程設計、計画、最適化の各段階で、より適切な意思決定が可能になります。また、潜在的な問題を早い段階で見つけて対処できるため、高いCP(工程能力)とCPK(工程能力指数)を備えた、より安定した製造工程の実現につながります。
図4: AutoForm FormingとAutoForm Assembly – 製造工程全体のデジタル化
バーチャルアセンブリの価値を理解するには、まず対象となる製造工程の基本を押さえる必要があります。
BiWサイクルとプレス成形工程
製造工程はプレス工場から始まり、そこで冷間プレス成形または熱間プレス成形が行われます。成形後には寸法偏差が生じる可能性があるため、事前に予測し、抑制する必要があります。溶接部品のアセンブリでこれらの偏差を考慮しない場合、溶接ロボットや治具の調整が難しくなり、組立品の公差外れや溶接部への過度な応力につながる恐れがあります。その結果、衝突試験での不具合や車体の弱点を引き起こす場合があります。
バーチャルトライアウトは、オートフォーム社が開発したコンセプトです。AutoForm Assemblyなどの高度な工程シミュレーションソフトウェアを使用し、完全にデジタル化された環境で部品の物理的挙動を予測します。これにより、サーフェスの寸法偏差に加えて、アセンブリ、溶接、ヘミング工程のGD&T(幾何公差)や、塗装炉工程での挙動も検証できます。物理現象に基づく解析をPFMEA(プロセス故障モードおよび影響分析)に組み込むことで、潜在的な不具合を早期に特定し、戦略的な意思決定を支援します。APQP(先進製品品質計画)を強化し、PPAP(生産部品承認プロセス)段階での予測精度を高めることで、初回生産ロットから規格適合を確保するのに役立ちます。
これらの解析により、個々の部品の最終形状や残留応力を含む実際のプレス成形結果を、アセンブリシミュレーションの重要な入力データとして活用できるようになりました。プレス成形時の挙動を用いてアセンブリ精度を予測することで、工程間をバーチャルに連携でき、図5に示すように、ゲスタンプ社がフルサイクルシミュレーションと呼ぶ手法が実現されています。
図5: ゲスタンプ社フルサイクル
ゲスタンプブラジル社のアドバンストエンジニアリングチームは、図6に示すように、垂直方向のデータ統合に基づく手法を採用しています。このワークフローは、構造化、位置付け、アクション、目的の4つの柱で構成されています。
図6: 垂直方向のデータ統合
フルサイクル方策により、アセンブリシミュレーションは複数の情報源から正確なデータを取り込むことが可能になります:
・コスト見積もり:ワークセル内で必要な治具やロボットの台数の決定など、コスト面の実現可能性を事前評価。
・製品:形状の検証、公差、部品間の干渉解析。
・プレス成形(冷間/熱間):プレス成形中に生成された変形メッシュのエクスポート。
・工場支援:量産工程の継続的な改善。
これら4つの柱を基盤として、バーチャルアセンブリ工程は比較と検証の4段階で進められます。
ステップ 1(CAD-0データ – ユースケース1)
基準CADデータ(CAD-0)は、溶接工程が最終寸法に与える影響を評価し、自由状態および支持(拘束)状態の条件下で測定治具の妥当性を検証する上で使用します。
見積もり段階で実施される調査では、ゲスタンプ社はAutoForm Assemblyの推定機能を用いて個々の部品の変形を推定し、プロジェクトの重要部品を特定しています。これにより、より大きな成形上の負荷がかかる箇所を予測することが可能になります。図7はサイドメンバーの事例を示しています。推定された変形を適用した結果、アセンブリ精度の低下が確認され、偏差の大きさだけでなく、その位置や原因となる具体的な部品も予測することが可能になります。
図7: サイドメンバーの事例
重要部品の実現可能性検討に加え、支持点の寸法安定性も検証します。これは通常、実際の製造工程でしか確認できない項目です。これにより、アセンブリシミュレーションの結果に基づいて製品を改善できます。図8は必要な支持点数を検証したことで得られた寸法精度の向上を示しています。
図8: 寸法安定性の検証
ステップ 2(バーチャル予測 – ユースケース 2)
プレス成形シミュレーションの結果(およびスプリングバック見込み補正)を取り込み、クランプ方策、溶接順序、全体的な寸法方策を見直します。
溶接順序と治具に使用するクランプ数を見直すことで、ゲスタンプブラジル社は部品の拘束解析で良好な結果を得ました。溶接工程中の部品の安定性を検証することで、プロジェクトのRPS(基準点システム)、すなわちデータムの妥当性を確認しました。また、安定性を損なわない範囲でトグルクランプ数を最適化し、寸法精度を維持しながら溶接ガンのアクセス性を向上させることを提案しています。図9は、個々の部品に対するAutoForm Formingの結果を用いて、この工程をフロアパネル(トンネル)に適用した事例を示しています。
図9: RPSとデータムの比較
ステップ 2.1(ユースケース 2 – FormingとAssemblyのロバスト性の連携)
この手法では、プレス成形シミュレーションとアセンブリシミュレーションの連携をさらに発展させたことで、アセンブリの問題の原因が溶接治具にあるのか、プレス成形工程に内在するばらつきにあるのかを、エンジニアリングチームが特定できるようになりました。これにより、根本原因に対して適切な是正措置を講じることが可能になります。
図10はAutoForm AssemblyとAutoForm Formingの解析にロバスト性解析を組み合わせ、その結果に基づいてプレス成形工程を改善した内部補強材アセンブリの事例を示しています。この解析では、材料特性や板厚のばらつきなど、制御できない工程変数を考慮しています。その結果、寸法偏差は1.355 mm(左)から0.767 mm(右)に低減し、約45%の改善が得られました。
図10: ユースケース2 – プレス成形とアセンブリを組み合わせることで寸法偏差を低減
ステップ3(スキャン結果 – ユースケース3)
図11に示すように、CAD-0データと実部品の3Dスキャンデータを用いて、バーチャルモデルを更新します。これにより、初回の実機トライアウト前に、見込み補正方策を検証し、シム調整(調整用シムによる支持点位置の設定)を検討できます。目的は、自社製造品か外部調達品かを問わず、実際のプレス部品データを用いて、個々の部品の寸法ばらつきが及ぼす影響を把握し、工程を最適化することです。
図11: ユースケース3 – スキャン部品のSTLデータをアセンブリシミュレーションで活用
解析の結果、技術的観点から、当初のクランプ構成を維持することに決まりました。シミュレーションにより、この問題はプレス成形後の材料の弾性回復(スプリングバック)に起因することが判明し、この特定領域にクランプ荷重を追加しても偏差は是正されないことが明らかになったのです。この知見から、実機トライアウトにおいて、効率も効果も低いトライアンドエラーによる治具補正のコストを回避できました。
シミュレーションサイクルにバーチャルアセンブリを組み入れたことで、ゲスタンプブラジル社の製造技術は大きな進歩を遂げ、時間とコストの両面で大幅な削減を実現しています。個別の解析から連続的なデータフローへ移行したことで、溶接アセンブリの複雑な挙動を高い精度で予測することが可能になりました。
主な学び
精度:スプリングバックとそのアセンブリへの影響を予測することで、実機トライアウトの回数を大幅に削減できます。
相乗効果:シミュレーション部門、生産部門、品質部門の連携を図ることで、フィードバックが体系的に開発に反映されるようになります。
競争力:バーチャル化により、より短いリードタイムで確固たる技術的実現可能性を提供することで、ゲスタンプブラジル社はOEMメーカーにとっての戦略的パートナーとしての地位を確立しています。
関係者の経験からも、バーチャル検証の重要性が示されています。エンジニアリングの進化について、レオナルド・ドンピエリ氏は次のように述べています。
「エンジニアリングの未来は、複雑な工程をバーチャル上で検証する能力にかかっています。バーチャルアセンブリはこのデジタルトランスフォーメーションの中核の一つです」
形状品質や実機トライアウトを通じた改善について、レナン・ゴイヴィーニョ氏は次のように付け加えています:
「AutoForm Assemblyは、アセンブリ評価と技術的な意思決定の向上に貢献してきました。GD&T検証、溶接治具のレビュー、トライアウト支援での活用は、開発に付加価値をもたらすと同時に、アセンブリの寸法品質を向上させています」
本稿の共同執筆とご協力に対し、レナン・ゴイヴィーニョ氏とレオナルド・ドンピエリ氏に感謝申し上げます。また、ゲスタンプブラジル社の優れた成果を公表する上でご支援いただいた上司のレアンドロ・ペドラソッリ氏およびヴィニシウス・リオス氏にも感謝いたします。さらに過去数年間にわたり、製造およびエンジニアリングのワークフロー全体でAutoForm AssemblyとAutoForm Formingを活用し、貢献してくださったプレス成形部門やアセンブリ部門の同僚の皆様にも、心より感謝申し上げます。






















