FEMを「使う」から「わかる」へ:第7回 非線形とは何か?

板成形CAEの裏側を8回で読み解くコラム

AutoFormは塑性工学や計算力学的知識がなくても使いこなせることが強みのソフトウェアではありますが、ユーザーになった瞬間にソフトウェアについての説明を求められることも少なくありません。本資料では、FEMの考え方、変位・ひずみ、要素、薄板モデル、材料応答、非線形性をつなぎ、最終的に利用者から最も質問を受ける「解法の違い」について完全なブラックボックス状態から一歩だけ脱却することを目的とします。

全体構成

読み方の前提
• この連載は、数式を厳密に追うよりも「FEMが何を近似しているか」をつかむことを目的にしています。
• 内容は板成形CAEを念頭に置き、ソフトウェアのユーザー最初に持つべき全体像のみに絞っています。
• 8回まで読むと、要素とは何か、材料試験の大切さ、非線形性、解法などの理解が一歩進むことを目指します。

注意点
•本稿は、数式を厳密に導出するのではなく、FEMの全体像をつかむことを目的としています。そのため、説明を簡略化し、適用範囲や例外を省いています。学問として理解したい場合は、専門書、学会や非線形CAE勉強会、CAE技術者試験など、学術的裏付けのある体系的教育を受けていただくことをお勧めします。また説明のおおよその流れは以下の書籍を参考にしていますが、本稿独自の簡略表現を多分に含みます。

参考書籍:https://link.springer.com/book/10.1007/978-3-540-88113-1

第7回 非線形とは何か?

板成形CAEは、なぜ「非線形問題」になるのか

第6回では、FEMが内力と外力のつりあいを求めていることを整理しました。もし、荷重を2倍にすると変位も応力も常に2倍になるのであれば、問題は比較的単純です。しかし板成形では、材料は塑性化し、板は大きく形を変え、金型との接触位置も次々に変化します。そのため、現在の状態によって次の応答が変わる「非線形問題」として扱う必要があります。

1. 線形と非線形の違い

線形問題では、入力と応答の関係が一定で、重ね合わせが成り立ちます。例えば、力を2倍にすれば変位も2倍になる、二つの荷重を別々に計算して足し合わせても同じ結果になる、といった素直な性質です。これに対して非線形問題では、変形が進むことで材料の硬さ、形状、接触状態などが変化するため、最初に決めた一つの関係だけでは最後まで見通すことはできず、ある時点の情報から次の時点へと状態を更新していく必要があります。

線形と、線形でない何か

板成形CAEで重要な非線形は、主に「材料非線形」「幾何学非線形」「接触非線形」の三つに整理できます。実際の成形では、これらが独立して起こるのではなく、互いに影響しながら同時に進みます。

2. 材料非線形:材料の反応が途中で変わる

材料非線形とは、ひずみと応力の関係が一定の比例関係では表せないことです。第5回で扱ったように、金属は弾性域ではほぼ元に戻る反応を示しますが、降伏すると塑性域へ入り、荷重を除いても変形が残ります。さらに塑性変形の進行に伴って加工硬化し、同じ大きさの変形を追加で与えるために必要な応力も変化します。

塑性変形、再び登場

つまり、現在の応力は「今のひずみ」だけでなく、「これまでどのように変形してきたか」にも依存します。降伏条件、硬化則、異方性、除荷・再負荷などを表す材料モデルが必要になるのは、この履歴依存性があるためです。板減、成形限界、荷重、スプリングバックなどは、材料非線形の表現に強く影響されます。さらにこれが方向ごとに異なる特性を示すというのだから、それはもう複雑この上ないと言えます。

3. 幾何学非線形:形が変わると、力の伝わり方も変わる

幾何学非線形とは、変形によって形状や向きが大きく変わり、その変形後の形状が次の釣り合いに影響することです。線形解析では通常、変形前の形状を基準に力の釣り合いを考えます。しかし板成形では、平らなブランクが金型に沿って曲がり、回転し、面積や板厚も変化します。変形前の形状のままでは、力の向きや腕の長さ、接触位置を正しく表せません。

同じ方向に押しているのに、変形する方向が徐々に変わる

そのため計算では、増分ごとに更新された形状を使って、ひずみ、応力、内力、接触状態を評価します。大変形、大回転、しわ、座屈、曲げ戻し、板厚変化などが重要になる板成形では、幾何学非線形を無視することはできません。

4. 接触非線形:触れる場所と力が成形中に変わる

接触非線形とは、板と金型が「接触しているか、離れているか」が計算の途中で変わることです。パンチが近づく前は力が作用しませんが、板に触れた瞬間から法線方向の接触力が発生します。その後、板が金型表面を滑れば摩擦力が生じ、離れれば再び接触力はなくなります。

触れる場所が変わる

接触領域や接触圧力は事前に固定できず、変形結果に応じて毎増分変わります。ブランクホルダー部での材料流入、ビード通過、金型肩部の曲げ・曲げ戻し、しわの金型接触などは、材料非線形や幾何学非線形と接触非線形が組み合わさった現象です。

5. 三つの非線形は同時に進む

例えばパンチが板を押し始めると、まず接触状態が変化します。板が金型に沿って大きく変形すると形状と力の向きが変わり、やがて材料が降伏して塑性変形します。塑性変形によって板厚や形状が変わると、さらに接触位置と内力も変わります。この循環が続くため、板成形CAEでは一度の計算で答えを出すのではなく、時間を細かい増分に分け、その都度状態を更新します。そこで、この時間の増分と解法について、次回触れていきます。

まとめ(第7回の要点)
• 非線形とは、現在の状態に応じて次の応答が変わること
• 材料非線形は、弾塑性、加工硬化、履歴依存など材料の反応変化
• 幾何学非線形は、大変形によって形状と力の伝わり方が変わること
• 接触非線形は、接触している・離れている・滑っている、の状態が途中で変わること
• 板成形では三つの非線形が相互作用するため、増分ごとに状態を更新する

次回ダイジェスト:第8回「時間増分と解法」
• 非線形問題は、荷重や時間を小さな増分に分けて解きます。
• 同じ非線形問題を解くのに、なぜ陰解法と陽解法という二つの方法があるのでしょうか?第8回では、増分をどのように進めるか、陰解法と陽解法で何が異なるかを整理します。そして、一回の増分で何をしているのか、安定性をどう確保するのか、板成形CAEの結果をどうチェックするのか、実務的な違いを扱います。