FEMを「使う」から「わかる」へ:第3回 要素とは、対象物の性質を考える最小単位

板成形CAEの裏側を8回で読み解くコラム

AutoFormは塑性工学や計算力学的知識がなくても使いこなせることが強みのソフトウェアではありますが、ユーザーになった瞬間にソフトウェアについての説明を求められることも少なくありません。本稿では、FEMの考え方、変位・ひずみ、要素、薄板モデル、材料応答、非線形性をつなぎ、最終的に利用者から最も質問を受ける「解法の違い」について完全なブラックボックス状態から一歩だけ脱却することを目的とします。

全体構成

読み方の前提
• この連載は、数式を厳密に追うよりも「FEMが何を近似しているか」をつかむことを目的にしています。
• 内容は板成形CAEを念頭に置き、ソフトウェアのユーザー最初に持つべき全体像のみに絞っています。
• 8回まで読むと、要素とは何か、材料試験の大切さ、非線形性、解法などの理解が一歩進むことを目指します。

注意点
•本稿は、数式を厳密に導出するのではなく、FEMの全体像をつかむことを目的としています。そのため、説明を簡略化し、適用範囲や例外を省いています。学問として理解したい場合は、専門書、学会や非線形CAE勉強会、CAE技術者試験など、学術的裏付けのある体系的教育を受けていただくことをお勧めします。また説明のおおよその流れは以下の書籍を参考にしていますが、本稿独自の簡略表現を多分に含みます。

参考書籍:https://link.springer.com/book/10.1007/978-3-540-88113-1

第3回 要素とは、対象物の性質を考える最小単位

板要素とソリッド要素は、何がどう違うのか?

これまでの話で、連続体力学では「無限小の点の集まり」として考えること、そして工学的計算のために実際には有限の世界で問題を取り扱っていることに触れました。

有限の点の間がどんな性質でつながっているのかを考える最小単位が、「要素」です。ここで一度、FEMで使われる要素の種類について触れてみましょう。

要素の種類と自由度の整理

要素は取り扱う自由度によっていくつかの分類があります。伸び縮みしかしない棒であるバー要素、曲がることができる棒であるビーム要素、それを2次元に拡張したプレートやシェルといったように、要素の種類と言ってしまうと非常に多くのものがありますが、この資料ではイメージをつかむことが目的です。ここでは、プレス成形で使用される可能性のあるソリッド要素と、薄板プレスでよく使われるシェル要素の考え方を整理します。

1. ソリッド要素:いちばん愚直なモデル

ソリッド要素は、板を長さ、幅、厚さの3次元すべてに分割します。一般的な座標で考えると、X、Y、Z方向に分割するイメージです。つまり、解析対象物に無限小の点を厚さ方向にもびっしり並べて考えるモデルです。

• 厚さ方向の応力・ひずみをそのまま扱える
• 3次元的な挙動を忠実に再現できる
• 「曲がる」という概念は、一般的なソリッド要素では複数層の変形の積み重ねで表現される

つまり板の曲げを再現するには、厚さ方向に何層も要素が必要になります。さらに、要素の形が立方体や正四面体から離れるほど精度が下がるため、板厚を複数に分割できるサイズの要素が大量に必要であると同時に、大きく変形する場合はメッシュ品質の管理や場合によっては再メッシュが必要になります。AutoFormではカタマリである金型内の温度分布の計算や、金型の弾性変形の解析などの三次元的挙動が重要な対象にはソリッド要素を使用します。

板をソリッド要素で表現する(理想的には、板厚方向に10層ぐらい欲しい)

性質としては素直ですが、薄板の塑性変形を計算するには重すぎるモデルです。

2. 板要素という発想

そこで登場するのが板要素です。ここでは、伸びる、縮む、曲がる、を表現できる薄板用の要素を、便宜的にシェル要素と呼ぶことにします。シェル要素では、板の挙動を中央面(Mid-Surface)上の物質点の動きで代表させる、という割り切りを行います。

中央面のイメージ

厚さ方向は詳細に分割せず、愚直に計算する代わりに板の厚さ方向はこう振る舞うはずだというモデルとしてまとめて扱います。これにより、3次元問題をほぼ2次元問題として解くことができます。この厚さ方向をまとめる考え方は、第4回で詳しく扱います。ここでは、シェル要素にもいろいろあるということで、一般に良く紹介されるキルヒホッフの板要素とミンドリンの板要素を簡単に紹介し、AutoFormとの接続についても触れていきます。

3. キルヒホッフの板要素

「曲がった時の断面は変形しない」と考える。
キルヒホッフの板要素では、板厚方向の直線は変形後も直線のまま、中央面に直角のままと仮定します。言い換えると、厚さ方向のせん断変形を無視し、板は非常に薄いとみなす考え方です。

キルヒホッフの板要素のイメージ

• 非常に薄い板に向いている
• 曲げが緩やかな場合に理解しやすい
• 主に面内変形が支配的な(厚み方向のせん断を無視できる)場合の基本的な考え方

AutoFormではBEM要素を選択すると、このキルヒホッフの板要素を曲げに対して改良した要素で計算が流れます。板が激しく曲がるしわが多発する成形状況や、そもそも曲げ加工をする工程にBEM要素が向かないのは、改良されているとはいえ、そもそも曲げがそれほどない状況を再現するための要素モデルだからです。

4. ミンドリンの板要素

「厚さ方向も変形する」と認める。
ミンドリンの板要素は、キルヒホッフの仮定を少し拡張したモデルです。板厚方向の直線は、変形後も直線ではあるものの、中央面に直角とは限らないと考えます。つまり、厚さ方向のせん断変形を考慮し、キルヒホッフの定式化よりも板が少し厚く、曲げが大きくても精度よく対応できるモデルです。なお大変形や大回転については要素定式化だけの話題ではないのですが、第7回で少しだけ触れます。

ミンドリンの板要素のイメージ

• 曲げが強い場合に向いている
• フランジや曲げ戻しの評価に関係する
• スプリングバック評価で重要になる

一般的なFEMソフトウェアでは、このミンドリンの板要素をさらに改良したミンドリン・ライスナーの板要素が、厚板要素と呼ばれていることが多く、板が曲がる解析ではこの要素がお勧めされることが多いです。キルヒホッフの板要素と比べて、考慮すべきことが多いので、当然計算時間は少し伸びることになります。AutoFormではEPS要素を選択すると、ミンドリン・ライスナーの板要素をさらに改良した要素で計算が流れます。

5. 業務での使い分け

部品形状の複雑化が進み、スプリングバック解析がほぼ必須となった現状では、AutoFormでシミュレーションを行う場合、EPS要素を選択するケースが多いのではと思います。さらに板厚方向に押しつぶす加工を考慮できるTS要素もあり、金型のたわみ解析や熱間成形の型温度解析では、自動的にソリッド要素が使用されています。
ソリッドの解析ができないからシェル要素なのではなく、プレス成形のほとんどの場合はシェル要素の方が精度も計算時間も優れている、と思っていただければ嬉しい限りです。

6. 補足

AutoFormで利用できるBEMやEPS要素に関しては、一般的なものから改良されていると説明しました。どのような改良が加えられているかはここでは詳しく触れませんが、バージョンを経るごとに少しずつ変化しています。これらは全くの秘密というわけではなく、特に大きな改良があった場合は各バージョンの「ホワイトペーパー」に内容が解説されています。ご興味がわいた方は、過去のバージョンのホワイトペーパーを参照していただけると、具体的なイメージが湧くかもしれません。

まとめ(第3回の要点)
• ソリッド要素は3次元すべてを正直に分割し、曲げを正直に表現するには厚さ方向に多くの分割が必要
• シェル要素は中央面で板の挙動を代表させる
• キルヒホッフの板要素は非常に薄い板の少しの曲げを前提にしている
• ミンドリンの板要素は厚さ方向のせん断変形も考慮する

次回ダイジェスト:第4回「板は薄い、だから楽ができる」
• 第3回では、要素の種類とソリッド・シェルの違いを整理しました。
• 第4回では、なぜ板成形CAEでシェル要素が合理的なのかを、「薄い板」と「中央面」という前提から説明します。
•薄板を三次元のまま細かく分割する代わりに、中央面だけで表すと何を失い、何を残せるのでしょうか。第4回では、シェル要素が計算を軽くしながら曲げや板厚方向の情報を扱える理由を見ていきます。