FEMを「使う」から「わかる」へ:第4回 板は薄い、だから楽ができる

板成形CAEの裏側を8回で読み解くコラム

AutoFormは塑性工学や計算力学的知識がなくても使いこなせることが強みのソフトウェアではありますが、ユーザーになった瞬間にソフトウェアについての説明を求められることも少なくありません。本稿では、FEMの考え方、変位・ひずみ、要素、薄板モデル、材料応答、非線形性をつなぎ、最終的に利用者から最も質問を受ける「解法の違い」について完全なブラックボックス状態から一歩だけ脱却することを目的とします。

全体構成

読み方の前提
• この連載は、数式を厳密に追うよりも「FEMが何を近似しているか」をつかむことを目的にしています。
• 内容は板成形CAEを念頭に置き、ソフトウェアのユーザー最初に持つべき全体像のみに絞っています。
• 8回まで読むと、要素とは何か、材料試験の大切さ、非線形性、解法などの理解が一歩進むことを目指します。

注意点
•本稿は、数式を厳密に導出するのではなく、FEMの全体像をつかむことを目的としています。そのため、説明を簡略化し、適用範囲や例外を省いています。学問として理解したい場合は、専門書、学会や非線形CAE勉強会、CAE技術者試験など、学術的裏付けのある体系的教育を受けていただくことをお勧めします。また説明のおおよその流れは以下の書籍を参考にしていますが、本稿独自の簡略表現を多分に含みます。

参考書籍:https://link.springer.com/book/10.1007/978-3-540-88113-1

第4回 板は薄い、だから楽ができる

板成形CAEの最大の前提

前回までに、無限小の点が動くこと、無限小の点どうしの距離が変わること、そして要素の種類について整理しました。今回はさらに一歩進んで、なぜ板成形CAEでは板を特別扱いできるのかを考えます。

その答えは、とても単純です。- 板は薄い – この事実が、FEMを一気に現実的な計算にしてくれます。

1. 板は「3次元の物体」だが…

当然ですが、板は3次元の物体です。長さ、幅、厚さの3つの寸法を持っています。しかし板成形で扱う板は、長さ・幅が数百mmから数mであるのに対し、厚さは1mm前後です。つまり、厚さだけが他の寸法に比べて圧倒的に小さい。これが板成形CAEにおける最大の前提条件です。

ブランクの寸法例

2. 厚さ方向で何が起きているか?

板の中の様子をイメージしてみましょう。板の表面と裏面は、成形中に引っ張られたり、圧縮されたりしています。一方で、板の中間あたりには、ほとんど伸びも縮みもしない層が存在します。これが中立面、またはNeutral Surfaceと呼ばれるものです。一方板厚の寸法的な中央は中央面、またはmid-Surfaceと呼ばれ両者は厳密には異なります。薄板シェル理論では「中央面」を基準として使用するので、ここからは両者がほぼ同じものとして、中央面を使って説明していきます。

板の中央面、XYは面内、Zは面外

3. 中央面という「代表面」

板成形CAEでは、板全体の挙動を中央面上の無限小の点の動きで代表させる、という割り切りを行います。言い換えると、厚さ方向の情報をすべて個別に追うのではなく、中央面に集約するという考え方です。これによって、3次元問題をほぼ2次元問題として扱えるようになります。

4. 厚さ方向は「積分してしまう」

もちろん、厚さ方向の情報を完全に無視しているわけではありません。シェル要素では、中央面のひずみや曲率から板厚方向のひずみ分布を評価し、板厚内の積分点で構成則を用いて応力を計算します。さらに、その応力を板厚方向に積分して、膜力や曲げモーメントなどの断面力として全体を考えます。前回出てきたキルヒホッフの板要素では、次のようなイメージです。

伸び縮み、面内せん断と曲げを含めた変位とひずみの関係

ここで、xとyは面内の方向、zは板厚方向を意味します。この式が意味しているのは、板の伸び縮み、面内の形のゆがみ(せん断)については板中央の動きで表現、曲げについては中央面にルールを設定し、厚さ方向の分布はルールに基づいて決めるということです。移動量である変位と変形量であるひずみの関係性を表現しています。

この割り切りによって、面内の伸び・縮み・ゆがみ、曲げによる影響、板全体の力のつり合いといった情報を残します。一方で、厚さ方向の詳細な応力分布や、板厚内の局所的な3次元挙動は原理原則としての考慮からは外しています。重要なのは、簡略化していることを理解した上で使う、という点です。

5. だから「シェル要素」でよい

このような考え方に基づいて使われるのが、シェル要素です。シェル要素は、中央面上に節点を持ち、厚さ方向は理論モデルとして扱う要素です。板成形CAEでソリッド要素ではなくシェル要素が使われるのは、計算を楽にするための手抜きではありません。板の物理に合った、合理的なモデル化なのです。

一方で、板を切断するときのせん断面と破断面やバリの形成や、差厚ブランクを接合している角の部分の挙動など、板の厚みを通して一つのルールでは表現できないことが起きる場合は、シェル要素では完全に再現することはできません。通常のプレス成形の範囲で行われるしごき成形や、高い接触面圧による板厚減少など、板の厚みを通して一つのルールで表現できる範囲の現象は、シェル要素の拡張により表現が可能で、AutoFormでも対応の手段があります。

最後に、これまで「無限に小さな点に分割する」として考えてきましたが、今回「板である」という前提条件が加わりました。つまり、要素の大きさと厚みのバランスが明らかに板と呼べないサイズになる場合は、前提から外れることになります。こういった理由もあり、要素は小さければ小さいほど精度がいいわけではないこともご理解いただけるのではないかと思います。

まとめ(第4回の要点)
• 板は3次元物体だが、非常に薄い
• この薄さを前提に、問題を単純化できる
• 板全体は中央面で代表させる
• その結果、シェル要素が合理的に使える

次回ダイジェスト:第5回「材料はどう反応するのか?」
• 第4回では、薄板を中央面で代表させる考え方を整理しました。
• 第5回では、変位からひずみを求めた後、材料がどのように応力を返すのかを扱います。
• 弾性、塑性、構成則という言葉を、板成形CAEの結果を理解するために整理します。