顧客離れこそが最も痛手となる教訓です
最近あるお客様から2年間も不具合対策に苦慮しているというチューブ部品ついて相談を受けました。そのサプライヤはOEMに部品を供給していますが、その苦境については以下の写真がすべてを物語っています。問題となっていたのはリアアスクルのサイドメンバーの金型でした。
このプロジェクトは2019年に始動し、同年に最初のシミュレーションも実施しています。サプライヤ(以下「プレス工場」と称します)は当時AutoFormとは別のシミュレーションソフトウェアを使用していましたが、そこで設計変更の必要性は示されませんでした。しかし生産が始まると最悪の事態に直面することとなり、さまざまな回避策が試みられました。
ロバスト性解析を活用することでいかに数百万ドル(約1億5千万円)のコストを回避できるか、そしていかに製造ラインの安定した稼働を担保できるかという観点から本事例をお届けします。
プロジェクトとその問題点
最初のシミュレーション実施後に量産開始となり、2020年初頭には初めて部品が生産されました。この生産工程は、曲げ加工、予備プレス成形、ハイドロフォーミングの3工程となっています。
まずストレートのチューブに4つの曲げ加工を施し、自転車のハンドルバーのような形状にします。次の予備成形では、金型でプレスします。そして最後のハイドロフォーミングにて、チューブ断面形状を変形させます。
初回生産後、左右両側にわれが確認されました。さらに調査を進めると、不良品率は50%を超えることが判明したのです。これはもちろんコストに大きく影響します。絶望的な状況でした。
部品の不具合対策
残念ながら、トライアウト部門および生産部門の担当者たちは、この不具合への対策を検討するにあたり、シミュレーションを積極活用することはありませんでした。むしろこれまでのトライアウトの経験をもとに、金型を手作業で修正することを選んだのです。そこで試された対策は以下の通りです。
- 各種工程パラメータの手作業による調整
- ビニールシートの使用
- コンサルテーション
1. 各種工程パラメータの手作業による調整
まず工程パラメータを調整することで最終部品に変化をもたらす対策が試みられました。
曲げ角度を段階的に上げてゆきましたが効果は確認できず、面圧を調整しても、しわとわれを相殺することができませんでした。参考になる修正基準がなかったためです。シミュレーションによる解析結果のように確実な指針が示されない中、トライアウトは手探りで進める他はなく、面圧、潤滑、表面処理、チューブの長さや厚さ、直径など、さまざまな値の調整を試みなければなりませんでした。このようなトライアンドエラーで事態を打開することはできず、修正回数を重ねても不具合は解消されません。むしろ悪化の一途をたどるばかりでした。
2. ビニールシートの使用
試作品の製造時には、材料流入や摩擦を低減するためにビニールシートを使用する場合があります。ビニールシートで材料の流れを促すことで、われなどの不具合を抑制できるのです。しかしこれには膨大な時間とコストがかかるため、量産には適していません。
不良品率を抑制すべく、このビニールシートをプレス工場で試してみました。するとある程度の成果が確認されたため、量産工程にビニールシートを追加することを決めました。
しかしその結果、時間やコストが大幅に増加しただけでなく、生産量までもが減少したのです。残念ながら、この対策は量産には適しておらず、不良品率は依然として50%に達する勢いでした。
このような損失や追加経費を考慮すると、プレス工場ではこの想定外のコストを顧客であるOEMに転嫁せざるを得ず、最終的には部品価格の引き上げという形をとることになりました。
当面の間、生産は続行しましたが、このことが顧客との関係悪化を招いたのです。
3. コンサルテーション
万策が尽きたプレス工場では、プレス成形シミュレーションを専門に扱うオートフォーム社に相談を持ちかけました。そこで必要なデータをすべて収集し、ロバスト性解析を行うことになりました。そこでは、AutoFormソフトウェアを用いたシミュレーションの結果は当初のシミュレーション結果とは異なり、製造された部品のしわやわれの傾向と一致したのです。
初期の調査結果とAutoFormシミュレーションを用いた検討結果の違いは、フィージビリティの結果が的を得たものであっただけでなく、後者の解析では工程パラメータのばらつきを考慮していたことにあります。従来のシミュレーションソフトウェアでは、それぞれのパラメータに1つの値しか設定することができません。つまり1つの材料特性値のみを設定してシミュレーションを実行すると、潤滑や面圧などの特定の値のみに目を向け、自然なばらつきが考慮されることはありません。これが50%にのぼる不良品率を抑制することができなかった一因であると考えられます。
まとめ
AutoFormシミュレーション結果はプレス工場の担当部署に提示され、再現された不具合の規模や位置が実部品と一致していることが確認されました。
このプレス工場では2年にわたりチューブ部品のわれを解消すべく、さまざまな対策を試みましたが、その間、実質的な解決策がないまま、顧客に納品しようとしていたのです。手作業による「裏技」も役に立ちませんでした。
後日判明したことですが、顧客のOEMでは同部品の生産を別のサプライヤに発注していました。不具合対策に苦慮していたプレス工場では、このOEMから今後の案件もすべて失う危機に瀕していたのです。
もしプレス工場が、プロジェクトの初期段階から部品のロバスト性解析を行っていれば、このような事態は避けられたはずです。当初からプレス工場で実現可能でロバストな設計を行うことで、適正な価格で欠陥のない部品を納品することができるようになります。